(シルエットの後日談)

初めて同じように呪いの呪印を受けたパートナーと話をしたアリシエ。以前、ウォンレイのパートナーが呪いを受けていると知り接触を持ち、この状況の打破を考えていたが、ウォンレイのパートナーのリィエンは呪いにより体を動かすことさえ困難となっていた。この状況でウォンレイに協力を依頼していたが、拒絶された。それきり。

もう、誰もこの魔導挙兵を復活させるために躍起になる野望をもつ者しかいないのか、と絶望していた。しかし、先日会ったニコルは違っていた。
「彼なら、きっと協力してくれるに違いない・・・」
アリシエは小さな希望を手に入れたように気だるい体に力を入れた。
毎日のようにリーヤは僕の体の具合をチェックして心配そうにしている。知っているからこそつらい。
ある夜に、ふと目覚めた時に隣に寝ているリーヤの体は震えていた。すすり泣く声をこらえて背中を向けていた。パートナーとは時に残酷だ。伝えなくても、気持ちが通い合っているようで。自分よりもパートナーを想う気持ちが痛いほど伝わってしまった。リーヤを抱きしめようとしたけれど、きっとリーヤは泣いていることを僕に知って欲しくないであろうから、ぐっと耐えて闇夜の天井を見上げていた。一筋の温かい雫が頬をぬらしていた。

それからはなるべく、体の調子が悪い日はリーヤに伝えるようにするようにした。それっきり、リーヤは夜に泣くことはなくなった。優しさが裏目に出て、相手を傷つけてしまうことがあると、僕は知った。

****

発作のタイミングも掴めるようになり、二コルから教わった医務室に調子が悪くなりそうなときに行っては休養をとるようにしていた。リーヤにこれ以上責めてほしくない。そう想う度にもう一度、二コルに会って協力を依頼したい気持ちが募っていた。
この広いファウードで、リオウから集合がかからない際は誰もいない広い部屋のように冷たく暗い世界がある。それがファウードだ。
なるべくリーヤとなにかファウードに弱点はないかを暇を見つけては探していたが、なかなか手がかりはなく。刻一刻と体調も悪化していった。週に2,3回の頭痛さえ、ここ最近は毎日のように起きる。その度に医務室で手に入れた痛み止めを使いごまかしていたが、ひどい時は、寒気も止まらない上に指一本動かせずになるときがあった。その時は本当にリーヤには申し訳なくて仕方なかった。今まで弱さを見せたことがなかったからこそ余計驚かせてしまったとおもう。
「すまないな、リーヤ・・」
「いいんだ!!ごめんな・・・僕、アリシエの力になるし、がんばるから!!だから!!!」

記憶がそこで途切れてしまった。
遠くでリーヤの声が聞こえる。そんな闇の世界を3日くらいさまよっていた。

***
目覚めたときにはリーヤはいなかった。
「りーや・・・??」

ファウードでの仕事に行ったのか。僕は今日は仕事はないらしい。戦力になるパートナーや魔物は、それぞれこのファウード内で日常に必要なものを買いに行くことや当番制で仕事をする。大体リオウの割り当てで決まるがパートナーの体調によっては別の魔物との行動をすることもある。
重いからだを引きずって扉を開けた。閑散としていて、物音ひとつない不気味な空間。何日過ぎたのか?いや、何時間寝ていたのか?記憶の中でリーヤが僕を呼んでいたが今はいない。どうなっているのか。頭重感は取れない。医務室に行って、切れた痛み止めを拝借に行こうと廊下をよろよろと歩くアリシエ。

何かが落ちる音が聞こえた。
なにかと思い、目を見開くとそこには以前会ったニコルが医務室の前で倒れていた。

***

「ニコル?!!!大丈夫かい???すごい汗だ・・??聞こえるかい、僕の声???」
「うううっ・・・・・っ・・・」
「おい!!!しっかりしろ!!!どこが痛い??」
「ちぇ、りっ・・・・・・・・・しゅ、、、、、、、」
「おい!!!聞こえるか???すまない、とりあえず汗拭くぞ!!??」
失神したニコル。
パートナーのいる部屋さえわからない。きっとさっき言っていたのはパートナーの名前だろう。以前、彼に介抱してもらった。だから今度は僕が助けてあげたい。そう思ったのは事実だ。だから、汗をふき取るために水で冷やしたタオルでニコルの体を拭こうとした。
「・・・え?」
さらしを上半身に巻いていた。それもかなり重装備。
「ど、どういうことだ・・??」
アリシエはびっくりして冷やしたタオルを床に落とした。

この男。
いや、まさかそんな。
「ニコル、君は・・」
(おんな??)

***
ニコルは目を覚ますと右手が温かかった。ベットに自分はいて、隣には以前あったあの男。同じ呪いの、確かアリシエとかいったか?

「え・・・」
ニコルは服をチェックした。その反動でアリシエがニコルを握っていた手は離れ、その衝撃でアリシエも目を覚ます。

「!!ニコル・・気づいたのかい?良かった」
「おい」

ニコルは今までにない表情でアリシエを見つめた、まるで敵を見る瞳。それを見てアリシエも察した。

「君が医務室の前に倒れていた。だから介抱した。それだけだ」
「・・・・」
沈黙は続く。心臓の音がやけに静かなせいか響く感じ。

「僕は、君が以前助けてくれたから・・・」
「みたのか」
「え」
ニコルはうつむいている。
「あ、・・・すまない。だが、僕は誰にも言わない!」
「そういう問題じゃない!!」

ニコルは男装をした女性だった。これはかなりの衝撃ではあった。なぜ、男装をしているのか。わけがわからなかった。きっと何かあるのだろうとは思っていたが。

「アリシエだったな。お前を信用していないわけじゃない。呪いを受けているという点で、俺とお前はこのファウードを復活させることに反対したんだ」
「・・・ああ」

「だが、俺たちはここにいる」
「・・・ああ」

アリシエもまたうつむいた。ニコルはそのまま話を続けた。

「以前、言っていたな。また会ったらパートナーの話をしよう、と。俺のパートナーはチェリッシュという。今度俺が倒れていたら〇〇室に彼女がいるはずだ。俺が倒れているときは彼女を呼んでくれ」

「わかった」

「俺もこんなでかい魔物を動かすことに反対した。だが、ここにいる。なぜかわかるか?」
「・・・・・」
「チェリッシュに言われたからだ。俺の命など世界を救えるならと思っていたが、チェリッシュは私のパートナーはあなたしかいないのよ、ニコル。そう言われた。だからここにいる」

「・・・僕も自分の命よりも家族を救いたかった。だが、家族を人質にとられ、ここまできた。リーヤは僕が死ぬことを恐れている。」

「当たり前だな。お前がリーヤを想うようにリーヤもお前を想っているんだ。そして俺もチェリッシュのためにこういうことをしている」
「事情はわかった。誰にも言うつもりはないから」
「言おうとしたら俺がお前を殺すだろうな。こう見えて保安官だ。銃でお前を撃ち殺す」

ニコルはアリシエを睨み付けているが何故かその瞳は潤んでいて今にも泣きそうだった。
「これ、君に返そうと思って」

以前自分が泣いた時に渡されたニコルのハンカチ。スッとそのハンカチを取ってニコルは横を向いて顔を拭く。

「捨てても良かったのに。」
「綺麗にして返すと言った。約束は守る」
「・・・・そうか。」

また、沈黙。
よく見たら男性と思った自分が恥ずかしいくらい華奢な体だった。パートナーのために自分を偽っている。どこか自分と似ているとふと思う。ニコルは立ち上がり、棚から薬を大量に持って外に出ようと扉の前に立ってポツリと言った。

「ばれたのがお前でよかった。これはチェリッシュにも秘密だ。約束だ」
そういってふっと微笑むニコルは女性にしか見えなった。

「・・・僕はいったい何をみていたんだろう」

知らないことだらけの世界が故郷を離れてたくさん押し寄せるようにやってくる。孤独や死の恐怖に彼女も戦っているのか。そう思うと何故か笑えた。

「・・・約束は守るよ」

アリシエはそうつぶやいて棚にある痛み止めを持って医務室をあとにした。
不思議だ。また話をしたい。そうまた自分が思っていることに気づいてしまった。
これは二人の秘密。とりあえずは。二人だけの
FIN
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