当たり棒 (5/7)
アカギクンはそれはもう華麗に先輩方を始末してくれた。
彼よりも図体のでかい先輩方が次々と逃げていくのは滑稽で全てが終わったとアカギクンは小さく息を吐いて拳をプラプラとふっていた。
「大丈夫ですか?」
このアカギクンがとても危ないやつだというのは承知の上なのだが彼は額から滝のように血液を流してるのにも関わらず止血するでもなくのんびりしているのでこちらの方が不安になり患部にハンカチを押し当てた。
「すぐ止まる。頭だから派手に血は出るけど傷は深くない。」
なんでもないというふうに彼はベンチに座り私を見上げた。
貧血にでもなったら大変だろうに
「そう。名前なんていうんですか?」
「赤木しげる。」
ああ、それにしてもまだ半分しか食べていないというのに私のアイスは無残にも地面に広がり蟻さんのご飯となっている。なんて理不尽なんだ、ただそこに居合わせただけだというのに。
「私はみょうじなまえ。しげるくんって呼んでもいい?歳近いみたいだし。」
「好きにすればいいよ。」
しげるくんは喋るのがあまり好きではないらしくそっぽを向いてしまう。
暫くの間沈黙が続きしげるくんはベンチから立ち上がった。
きっと家に帰るんだろう。
「ああ、そうだ。」
しげるくんは私に振り返ると彼が食べてたであろうアイスの棒を私に突き出してきた。
え、なにこれ俺は全部食べれたぜって自慢なの?と思いながらよくよく突き出されたアイスの棒をみてみると゛当たり゛の文字。
「え、あいいの?」
「これのお礼。それにあんた落ちたアイスずっと見てたから、」
しげるくんは額を押さえていたハンカチをひらひらと振ってみせた。
「ありがとう。」
私が礼を言い終わるか終わらないかのうちにしげるくんは何処かに向かって歩き去ってしまった。なんとなくどこにも行く気が失せた私は駄菓子屋でもう一度当たり棒でアイスキャンディをもらいペロペロしながら帰り道を歩いた。
我ながらドラマチックな出会いだ。
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