▼未成年者の喫煙

枕に顎を押し当てて布団の上に灰皿を置いて、煙草の煙を吸い込む。
寝煙草は行儀が悪いし、私のこの有様を見た今までの恋人たちとその後上手くいった記憶はないがこの習慣を心底気に入ってる私は直す気など毛頭ない。

「なまえさん、行儀悪いよ。」

「おかえりしげるクン。」

学校から帰ってきたと思しき親愛なる同居人は私のだらしない習慣を口だけで咎めさして気にもしていない風に畳の上の煙草に手をかけた。
しげるくんと私は単に生活を共にしているだけなのでお互いに干渉はしない。だから私も未成年であろうと彼の喫煙に口を出すつもりもない。

「今日の夕飯なに?」

「カレイの煮付け。」

「へえ。・・・怒らないの?」

「なにが?」

しげるくんは自分の手元の煙草に視線を落とした。

「私も君くらいの時は吸ってたよ。」

「なまえさんは真面目そうだけどなぁ。」

「そんなことないさ。もっと若い頃は蓮っ葉だなんて言われてたね。」

「今でも若いじゃない。」

フフフ、としげるくんは意味深な笑みをこぼす。

「こんなものどこが美味しいのか俺にはわからないけど、」

しげるくんは煙草を一吸いすると不味い、と薄い舌をちろりと出した。
小さくて可愛らしい舌だ。

「そのうちわかるようになるさ。」

仰向けに寝返るとしげるくんが覆い被さってきた。

「危ないよ。灰が顔に落ちるかもしれない。」

「危ないのは君じゃないかい?」

しげるくんはじーっと切れ長の瞳で私の顔を覗き込む先に根負けしたのは私で仕方なく灰皿に煙草を押し付けると彼の後頭部に手を回し撫でてやる。

しげるくんは目を細めるとゆっくりと顔を近づけ私の唇を奪うと舌なめずりをする。

「美味しくないでしょ。」

「苦い。」

肩に顔を埋められると彼の柔らかい髪があたってくすぐったくて仕方がない。
もぞもぞと身動き取れないなりに藻掻く私の耳元でしげるくんは、でも、嫌いじゃないよ。なんて囁くものだから、尚更身動きが取れなくなる。

「俺みたいなガキに顔赤くして随分初だね、なまえさん?」

「君は今日は夕飯抜きね。」

人の気も知らないでこの子供は、と彼の華奢な身体を押し返し、身体を起こしてそっぽを向く年甲斐もなく中学生相手にむくれるなんて本当にどっちが子供なんだかわかりゃしないがこの子供に口で勝てる気がしない。

「クク、冗談だって。怒らないでよ。」

可笑しそうに肩を震わせながら尚も腰に手を回してくるしげるくんを大人の対応で軽くいなしたいのは山々だがそれすら行動にできない私はきっと彼より子供なのだろう。








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