陰鬱な雨
雨がザアザア降っていたので私の心はとってもとっても沈んでいた。
全く嫌んなっちゃうわほんと、雨って嫌いよ。雨季ってなんなの?うきうきしてんの?
陰気な気持ちのまま城下で浴びるほど酒飲んで陰気な顔でふらふらしながら王宮の緑射搭を彷徨いてると前方にジャーファル様が見えた。
私の顔を見るなり血相を変えて走ってくるのだから何事かと思うと顔を袖でごしごしと拭かれた。
痛い痛い、止めてください、止めてくださいもっと優しく拭いてよね。
「びしょびしょじゃあないですか!女性なんですから傘くらいさして出掛けなさい。」
「すんませーん。」
嫌ぁねぇもう、女性なんだから傘くらいさしてって良いじゃない別に水も滴る好い女よ。
そんな心配そうな顔しないでよ全然大丈夫よ風邪なんて私引いたことないのよ?覚えてないだけかも知れないけど。
「酔ってるんですか?」
「いいえ、素面ですよ。」
どうでも良い嘘をついた。別に私が酒を飲んでようと飲んでなかろうとこの政務官は私を放っておきはしないし無理矢理にでも部屋に送り届けるだろうに、
だと言うのにどうしても彼と同じ空間で息をすることが難しくなり、呼吸困難になりそうでどうにかして、離れたかったからついた嘘だ。
「部屋まで送りますよ。」
「大丈夫ですよ、一人で戻れます。」
貴方ってばほんと好い男ね、だからそんなに見つめないで貰えるかしらドキドキしちゃうじゃない。
ああ、もう好きだわ。ほんと大好きなのよね。貴方私がどうして今日こんなになるまで遅くまで飲んできたのかわかってるのかしら?
貴方のせいよ全部貴方のせいなんだから。
結局ジャーファル様に押し負けて部屋まで送ってもらうことになって、一日の終わりまで彼の顔を拝める権利を私に与えて下さった神様に感謝をすると共に呼吸困難で死にそうで私をこんなものにしてしまった神様をとてつもなく憎んだ。
「なまえ殿」
「何か?」
「何か悩み事でもあるのですか?最近、様子がおかしいとヤムライハも心配しています。」
はい、貴方が原因です。私がおかしいのは全部貴方のせいでーす。
「私も貴女が少し心配です。お力になれることがあれば是非。」
心にもないくせに。口をついて出そうな悪態を舌先で転がして飲み下す。
いや、だってそうじゃない?見えてないでしょ?私なんて貴方に見えてないじゃない。あんたが見てんのはシンドバッド様だけじゃね?
何時だって何処だって何してたって四六時中考えんのは王様のことだろ政務官さんよ、
お力になりたいって、ホントに力になりたいんだったらこんなにおかしい私を助けたいんだったら、今すぐ抱いてくれよ私と結婚してくれよ。
もう辛いよ、涙が出そうだよ。
昔は良かった、適当なノリで男と遊んで雀の涙ほどの給料だったけど浴びるほどタダ酒飲めて空っぽで中身の無い生活だったけどこんなに死にたくならなかったよ。
一緒にいる時間がとても長く感じた静まり返った廊下は雨の音と二人の靴音しかしなくて世界に二人きりになった気分だった。
「ジャーファル様、私は正気ですよ。」
「ええ、わかってます。」
部屋の前まで着くと、それでは私は。と言って帰っていくジャーファル様を引き留めたけれど『好き』の一言がやっぱりどうしても言えなくて悔しいのと情けないのと虚しいのと切ない気持ちでさめざめ泣いた。
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