予後の鐘


ああ、どうしよう、どうしようと私の頭は混乱していてどうにかこうにか脳味噌の中で鳴り響く警鐘を止めようと壁に頭を打ち付けると鈍い音が一つ鳴りひどい頭痛と引き換えに警鐘は音を小さくした。

人間は絶望すると何も聞こえなくなるというが寧ろ私の頭の中は冷静で盛んに活発に脳内会話を繰り広げた。

それでも未だ頭の中はぐちゃぐちゃ沢山考えて入るが全く要領を成さず、主人であり友人である練白雄が死んでしまったという事実、変えようもない現実が目の前に突き立てられるばかりであった。

全くどうして私はあの日に限って彼の傍に居なかったのだろうか。
行軍先の陣営へと早馬で届いた手紙には現皇帝とその子息が暗殺され、今は戦争どころではないので戻ってこいとの内容がしたためられていた。
私たちの軍は手紙を見るや否やすぐに馬を出し都へ戻った。


数日が経ち禁城は外面だけ平穏を取り戻し皇帝の座は前皇帝の弟君である紅徳様継いだ。

亡くなってしまった白雄様の部下たちの殆どは位を落とされ、残った者たちは紅徳様の第一皇太子である紅炎様の許に下った。


白雄様とは幼い頃からの主従であり、彼は善き主人であり、善き友人であった。
だから、紅炎様の傍に使えることにはかなりの抵抗があった。

紅炎様は私と白雄様の仲を知っていたのか、それとも憔悴した私は彼から見ても異常なほどだったのか、暫く暇をくださった。
周りにはそんな私に反感を抱く者も少なくなかっただろう。

それから毎日のように持ち主を亡くしてしまった部屋へ赴いた。
日が登っては部屋の戸を開き何をするでもなく、部屋の中を眺め続け日が沈む頃に帰り、また夜が開ける頃には部屋の戸を開いた。

白雄様の部屋の調度や書物には一つ一つ幼い頃の思い出が在った。

思えば涙も流すことなど無かったのに胸の真ん中に穴が空いてしまったようだった。
ぼんやりと窓の外を眺めると夕闇に染まる城下の屋根たちは茜色を称えて静かに佇んでいる。

「毎日のように此処に居たのか。」

低く静かな声がして、振り向くと部屋の戸の前に紅炎様が立っていた。
慌てて平伏すると、畏まらなくても良いとたしなめられ、顔を上げた。

夕陽よりも紅く燃える瞳は無機質な光を放ち、私は目を伏せた。

「毎日此処に来て己を責めていると聞いた。」

「いいえ。ただ、声が止まないのです。頭の中に焼き付いているあの方の声が耳の中で私の名を呼ぶのです。此処にいれば未だ思い出に浸っていられる。」

「死人が口など利くものか。彼奴は中々の男だった。彼奴が王になれば良かったと思う。」

紅炎様は目を瞑ると息を吐いた。

「王に成りたくはないのですか?」

「興味が無いな。執拗に迫られたからやるだけだ。」

「私は白雄様を好いていたのかもしれません。」

決して赦される思いではありませんでしたが御側に居られるだけで良かったのです。

「そうか、」

紅炎様は私の左手を引き腕の中に閉じ込めて胸を貸してくれた。彼の胸に耳を当てると心臓がとくん、とくん、と脈打つ音が聞こえて、温かい彼の体温と左手を痛いくらいに掴む熱い腕が妙に心地好く私は初めて声を上げて泣いた。





Atgk
最初は白雄様死んじゃった後の話で主人公がぐだぐだ回想してる話を書こうと思って書いてたらどっちかと言うと紅炎様寄りの話になっちゃったやつ。





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