思えば背中ばかりを見ていたせいか私は自分の主の顔すらよく覚えていなかった気がする。

初めて出会った日の事を今でも鮮明に覚えている。私が全ての望みを失って何もかも投げ出してしまった人生最悪の日だった。私の目の前に突然現れたあの人は陽の光を背負って朱色に輝いていて本当に神様のようだった。

「なまえ、」

「はい、紅炎さま。」

「何を考えている?」

「初めて出会った日の事を、思い出していました。」

机の上の書類に目を向けたままの紅炎様は背後の私に振り向く事は無くひたすら執務をこなす。
夕暮れの落ちかけた太陽の光が彼の広い背中に当たって少し暖かそうだった。

こんな恐ろしい何かが渦巻くこの国にも太陽の恩恵を受けられるのだろうか。

「お気を散らすと行けませんので、退出いたしましょうか?」

「いや、いい。そこに居ろ。」

紅炎様は少し皇族らしからぬ不思議な人柄をしている。民衆の間では戦争好きなど野蛮な人間のように言われているが、それよりも歴史や文学に心を寄せる方で有り余る富に現を抜かし遊び呆ける地方豪族達よりも余程文化人らしい。

「少しお休みになっては如何ですか?女官に茶を用意させましたので、もうじき持ってくるでしょう。」

「ああ。」

紅炎様は筆を置くと小さく息を吐いた。戦争続きで西へ東へ忙しなく行ったり来たりで疲れているのだろう。
彼の許しを貰い私も椅子へ腰を下ろした。本当であれば主人の前では家臣は直立しているものであるが、紅炎様と私は古い友人という間柄でもあり、二人きりの時はそのように振る舞うことにしている。

暫くすると女官が気まずそうに茶を持ってくる。軽く礼を言い盆を受けとると女官は一目散に廊下の橋へと足を運ぶ。

王宮の中で私と紅炎様が実は恋仲であるのではと言う噂が数年前から流れているのでそのせいもあるのかもしれないが、今のところそのような事実は一切ない。

「どうにかならないものか…。」

「放っておけば良い。」

「そうは言いましても、嫁の貰い手も出来やしないじゃあありませんか。」

「嫁に行きたいのか?」

「いいえ、全く。紅炎様は飽きるまでお側に置いてくれると仰ったでしょう?貴方様が私に飽きるまでお側に居りますよ。」

「そんなようなことも言った気がするな。」

「あの時は私も結婚したくなくてヤケクソでしたからね。」

ー一緒に来るか?飽きるまで側に置いてやるー

あの時も丁度夕暮れで、兵として出世する夢も両親への信頼も自分の身体が女性だからというそれだけのことで奪われてしまった最悪の日。どういうわけか、私の事を知っていた紅炎様は私にそう告げた。口を真一文字に結んで何でもないことのように私に右手を差し出した。
表情は変わらず彼がその時何を考えていたのかは今でも分からないが真っ赤に燃える瞳はどこまでも真っ直ぐだった。

「今でもその手を取っていて本当に良かったと思っていますよ。」

紅炎様は少しだけ目を見開くと、直ぐに目を細めて少しだけ口角を上げた。当然だとでも言うように、

あの日からずっとその背中を追いかけて来た。あの時確かに繋いだままの右手は今でも私を引き続けて、彼が振り返り私を見つめる日を、たとえその日が来なくても待っていたいと追い続けていたいと思ったのだ。












Atgk
初紅炎様ですけど口調よくわかんないし話も意味不明ですね。すいません。
主人公は職業軍人みたいな感じでそこそこの家柄で、中々有能で出世することが夢だったのですが政略結婚させられそうになってうだうだしてるところを紅炎様に拾われて側近になった感じの人です。

ここまで読んでくださりありがとうございます。











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