*


「あっ、あッ…!」
ボロくてヤニ臭い、狭い室内に俺の恥ずかしい嬌声と、ぐちゃぐちゃといった淫猥な音が響く。
枕に顔を上げて臀部だけ高く上げた体勢の俺の後孔に、一本の指が埋め込まれていて、内壁を優しく擦りあげていた。
…『たった一本の』指が、『優しく』埋め込まれている。
――足りない。
誰かが呟く。
十分にほぐれてるのに、何で入れないの?
俺の中で、誰かがシズちゃんに問いかける。
「ん"っ!…あ、う...ん…」
グリッ、と前立腺を押し潰されても、それは一瞬だけで、すぐに離れていってしまう。
浅いところを行き来する指。
これでは、生殺しだった。
「はや、はやくっ…シズちゃん…ッ」
無意識の内に、俺の口からはおねだりの言葉が零れていた。
緩く腰を揺らして中に入っている指を深くまで迎え入れながら、彼自身が入った時の刺激を思い浮かべて、期待から立ち上がって涎を垂らしている自身がピクリと揺れる。
でも、次の瞬間何故かシズちゃんはピタリと動きを止めてしまう。
それは俺の見えない所で目を見開いて顔を真っ赤にしていたからなのだが、背を向けている俺には当然、知る由もなかった。

「…ったく。仕方ねえな…」
「あ…――っ、」
ズルリと指が抜けて、眉を下げて俺は振り向いた。
だがそこで俺の目に入ったのは、取り出された猛っているシズちゃん自身。
シズちゃんも欲求不満だったのか、俺にはシズちゃんがいつもより興奮しているように見えた。
枕を抱き込み、布団に膝を立て直して、足を開いてシズちゃんに受け入れる場所を曝け出す。
枕に顔を埋めながら、こんなにも快楽に弱い自分の身体と意思を恥じる。
酷く情けなくなって、こみ上げてくる何かに耐えるように枕に目元を擦りつけた。
「力、抜けよ…っ」
「…ンッ!ぅ、ふ…っ!」
…気遣ってくれるのならば、せめても返事してから挿入を開始してほしいものだ。
俺を焦らすと共に、自分も焦らされていたとでもいうのだろうか。
シズちゃんは俺に配慮の言葉をかけた途端、俺の返事を待つことなく挿入を開始した。
返事をしようと気を抜いていた俺の身体に、ソコに、その熱い塊が……
「んンッ、ひっ...ん、あ…っ」
ズズズ…。何とも嫌な音を立てながら侵入してくるその熱に、俺の唇からは熱い吐息と妙に甘ったるい声が漏れる。
久々の行為だと言うのに、散々焦らされ慣らされたせいか、痛みは微塵も伴わなかった。
ただ、強い快楽と、侵食されてゆく悦びがあった。
…だが、シズちゃんの先端があの場所を擦り上げた途端。
「――っ!ああ…ッ!」
目の前が、弾けた。



「――ッは…はあっ…はっ…」
「――早く、ねえか?」
煩い馬鹿黙れ死ね、死ね。
あまりにもデリカシーのない言葉を俺に投げつけるシズちゃんに、できることならそう言ってやりたかった。
だが今の俺は思い出したかのように襲い掛かってきた息の苦しさに、悔しいがシズちゃんを罵る余裕など全く無かった。
だから俺はただ、赤い顔を隠すように再度枕に顔を埋めた。
もちろん耳まで赤くなっていてシズちゃんに丸分かりだったなんて、俺は知らない。
「…臨也くんよぉ…手前は俺がいねえと自慰すらできねえのか…?」
「――っ、…あッ、おい触るなよっ…!」
後ろでシズちゃんがニヤニヤと笑っている気配がする。
失礼なことを言ってのけるシズちゃんに訂正をしようと、振り向いて口を開くがまるでそれを見計らったかのように、シズちゃんは僅かに白濁が付着している俺自身を撫で上げた。
その不意打ちのお陰で自分の口から漏れた嬌声に恥ずかしさが募り、怒鳴りつける。
が。意味など無く、それどころかシズちゃんは俺の言葉など聞こえてないとでも言うのか…
再び挿入を開始した。

 ―ズ、ズズ…
「ぅっ、あっ…!」
「――あー…」
「ゆっくり、ゆっくり、ね?ゆっくりね…?」
根元まで埋め込むと目を瞑って気持ちよさそうにするシズちゃんを、振り向いて見つめながら何度も何度も念を押す。
タガが外れて滅茶苦茶にされるのではないかと、俺は危惧していた。
例え十分に慣らされたとは言え久々の行為だ。
こんなにも間が空いたことが今まで一度もなかったためか、奥はまだ馴染んでいなかった。
それなのに、そこをいつもの調子で――いや、いつも以上のペースで荒らされるのではないかと思案すると、冷や汗が出た。
「あ…?手前はゆっくりより、早くて激しいのが、好きだろ…?」
「…っ!ひ…っ!」
ずるっ
嫌な音を立ててシズちゃん自身が抜けてゆく。
何を言うんだふざけるな馬鹿。
罵ってやりたいのは山々なのだがやはりそうすることは不可能で、シズちゃん自身から与えられた快楽に、言葉を飲み込む。
と、言うより飲み込むしかなかった。
馴染んでない奥を荒らしながら一気に浅いところまで抜かれたというのに俺の身体は強い快楽を感じていて、目の前はスパークしていた。
信じられない。
頭のどこか片隅で、そんな声が聞こえた。
…これも、禁欲のせいだろうか?
再び手加減無しにズブズブと埋め込まれるシズちゃん自身に背を反らしながら、前立腺をシズちゃん自身で軽く押しつぶされただけで達してしまったことを思い出す。
シーツを強く握り締めた包帯を巻いた右手から感じる痛みだけが唯一、俺にこれが現実なのだと教えてくれる。
…教えてほしくなど、なかったのかもしれないが。


そして俺が危惧していたことは現実となった。
ぐちゅ、ぐちゅ。耳を塞ぎたくなるような音を立てながら、シズちゃんの熱い杭は俺のナカを押し広げ、出てゆく。
タガの外れてしまったシズちゃんは、荒い息を繰り返しながら俺の尻に獣のように腰を打ち付ける。
手加減も気遣いも無しの荒々しい律動に、何度も何度も目の前が弾ける。
「あっ、あッ、しずちゃ、こわ…っ」
そんなシズちゃんが怖いのではなく、俺は強すぎる快楽が怖かった。
もう既に俺の腰にはまるで力が入らず、シズちゃんに支えられてなければ俺自身から分泌された白濁や先走り液によってびちゃびちゃになっているシーツへと崩れ落ちているだろう。
布団に突いた膝がかくかくと震えている。
あんなに荒らされるのが怖かった奥を、滅茶苦茶に突かれると気持ち良過ぎて呼吸を忘れる。
勢いを無くした薄くなった白濁が、自身の先端から滴る。
「――ッは、臨也、枕腹の下に置けっ」
「ん"、あっ!は、う、んあッ...あ、あーっ!」
まるで聞こえていない俺に、シズちゃんが荒々しい律動を繰り返しながら舌打ちをする。
前立腺を押し潰されなくとも奥を執拗に擦られれば、強すぎる快楽に何が何だか分からなくなるのだ。だから仕方ない。
殆ど色のなくなった白濁を自身の先端から溢れさせながら、どこか他人事のようにそう思った。
枕に縋りる俺の瞳からは涙が溢れ、そして枕に吸い込まれていった。
「…んえっ!?」
「…あー悪ぃ。」
絶頂の余韻に身を任せていると、突然縋っていた枕を抜き取られ、布団に顔面を打ち付ける。
俺は咄嗟に状況を飲み込むことができず、唖然と目の前の布団を見つめる。
そしてそんな俺に、シズちゃんは謝罪の言葉を述べた。
だがそうこうしている内に腰が浮いて、腹の下へと置かれる枕。
腰から離れてゆくシズちゃんの手。
覆い被さってくる大きな体。
包帯を巻いた右手へと重なる、優しい手。
俺の顔に近づいてくる、やけに整ったその顔。
「――…、」
仕方ないなあ。
小さく笑って、目を閉じた。
左手を布団に突いて、少し身を起こして顔を出来る限りシズちゃんに向ける。
 ―ちゅっ
重なる唇。
それが合図だったかのように、ずぬ…っと音を立てながら、シズちゃんの腰が再び動きはじめる。
「んぅ…っ!ふ、ぅ、ン…ッ!」
全てを持っていかれそうな感覚に全身を震わせ、口を開いて喘ぎを上げるが、その声は全てシズちゃんの口内に吸い込まれる。
とろとろに溶けたナカを擦りながらゆっくり、ゆっくりと抜けてゆく。
先端のエラが張った部分で、シズちゃんの腰の動きが止まった。
 ―ぐじゅっ
「んン"んんっ!」
瞼の裏に真紅の華が咲き乱れる。
熟した果実を潰したような音を立てて一気に最奥まで埋め込まれたその快楽は、言葉で言い表せないような凄いものだった。
いつもされてるのも凄いが、今は禁欲のせいもあってだろうか…とんでもないものだった。
「あっ、ひゃっ、う、んっ、アッ、ああっ!」
薄目を開けて、うっとりと目の前の真紅の華を見つめる。
激しい口付けを求めて緩く舌を動かせば、シズちゃんはそれに応えてくれる。
もっともっとと刺激を求めてシズちゃんの腰の動きに合わせて自らも腰を揺らせば、もっと目の前が赤く染まった。
俺自身からはもう何も出ないのに、俺はずっとずっと、絶頂を味わっていた。
ぼろぼろと涙が溢れて、目が蕩けそうだった。
もう、わけが分からない。
ただ、ただ気持ちいい。
ただ、ぐちゃぐちゃと言う音がやけに耳につく。
目の前が霞む。遠くなってゆく。

…ただ、俺の右手を優しく撫でるシズちゃんの手が、
俺の心を満たした。






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