拍手文ログ2 | ナノ
拍手文ログ2 主従セリフ20題(by#INCLUDE)
6.「こんな所で寝たら、風邪引きますよ。ほら、起きる起きる。」
天蠍宮の居住区に、居る筈の無い姿を捉えると。俺は二、三度瞬きをした。
あろうことか、女神はぐっすりと。幼いその寝姿を晒しているではないか。
何時もは教皇宮にて、凛とした姿で聖闘士を束ねているのに。
(…しかしまぁ。俺も一応男なんですがね…)
「ミ、ロ…?」
とろんとした眼で、瞼を擦りながらこちらを伺う女神の仕草が…ひたすら可愛くて。俺の理性は総動員。
「女神、どうなされたのです?このような場所で」
それでも、何とか欲望をひた隠し、多少声が上擦っているものの、女神に優しく問いかける。
「んぅ…、ミロを…待っておりました…の」
ズキューン!!
な、なんだ!?この衝撃は…!!
こ、これが所謂心(ハート)に矢が刺さったと云う現象なのか…!?そう、恋という名の!!!
女神の目尻には眠気の為、涙が溜まって。ふっくらと赤く色付いた果実はやけに美味しそうで。
「女神ッ…!!」
先程までの必死な抵抗を見せた理性達は、あっという間に退散して行ったらしい。
未だに眠りの世界の住人である彼女の肩を掴み、そして。
ビキビキッ…!
(あ、あれ?何でこれ以上近付けないんだ…?って…寒ッッ!!)
「…ミロ…お前という奴は…!!」
見事に凍ってしまった我身。振り返ることすら儘ならないが、その声色は相当の怒りを含んでいるのは理解した。
中途半端な体勢で。何とか動かすことが出来る首を声主へやっとの思いで向けると。
鬼の形相をした我が親友、水瓶座のカミュが仁王立ちしていた。
(ああ…俺このまま眠ったら確実に死ぬな…)
などとぼんやり思考を飛ばしていた所に、親友の必殺技の構えが飛び込んで来れば。一瞬にして現実の世界へ舞い戻り。
「ま、待てカミュ…!」
「問答無用…!女神に不埒な真似など許さん!!」
(ああ…さっさと女神を起こしていれば良かった………て。一回くらいあの柔らかそうな唇味わいたかったな……)
薄れゆく意識の中で、ミロは又もぼんやりと悠長に思ったのであった…。
(ミロ+カミュ→沙織)
7.「貴方のような従者は中々いません。ここまで色々意見してくる方は初めてです。」
「シオン…」
女神の澄んでいる美しい声は、困惑を含んでおり。
「何ですかな?女神」
対する教皇の座に再び付いた元牡羊座の男は、嬉々として弾んだ声音を送っている。
「こ、これ位自分で決められるわ…!」
(と、いうか…自分に決めさせて!!)
全身までもが桃色に染まっているかのように、沙織の身体は美味しそうに実っていた。
甘く、誘う香りを放つのは。正に食べ頃の果実。
目の前には、常に紳士たる振舞いの教皇様。しかし、その手中には非常に不釣合いの代物が。
白絹にレースをふんだんに配った、如何にも高級なその衣。しかし様子が可笑しい。
そう。
それは普通のドレスではなく、夜用の…所謂ナイトドレス。しかもどちらかというと…ベビードールに近い。
「そんな薄い服、恥ずかしくて着れません!それに極端に短いです!!」
とうとう女神の叱咤を受けたシオン。だが、全く動じてないのはある意味凄い。
「女神…この老いぼれの唯一の楽しみなのです…!!」
(ムウやカミュより若いじゃないですか!!)
心に浮かんだ叫びは口には出さないけれど。この教皇は前聖戦を生き残った功労者、そんな人間の好意を無下に出来ないのが心優しき女神である。
「人は見かけによらないです…」
愛らしい唇からは、重い重い溜め息が零れる。
シオンの振る舞いは、どうやら歴代の主従関係を超えているようで。聖域では日々攻防が続いているとか…いないとか。
(シオン→沙織)
8.「お仕事、大丈夫ですか?私でよければ、お手伝いしますよ?」
パタパタと。軽やかに教皇宮の中を行き来する女官達。平和になった聖域でも仕事が尽きることはない。
寧ろ雑用の類は増える一方で。忙しなく働き続ける女性に、声を掛ける者が。
「…い、いえ!!そんな聖闘士様の手を煩わせる訳には…!」
焦りのその声は、とても可愛らしく。それでいて非常に気品を漂わせているのは。
顔を隠すようにして逃げる体制を取った女官の手首を、そっと攫んだのは牡羊座のムウ。
「……私はそんな役立たずではないつもりですよ…女神?」
「!!」
女神が女官姿に扮していたのを、あっさりと男に見破られて。少々落ち込んだその様子に、思わず噴出してしまう。
「酷いわ…別に笑わなくても」
「フフ…失礼。ですが、どうしてそのような格好を?」
どんな姿であれ、女神としての凛とした雰囲気まで簡単に消せはしないのに。それに、単なる娯楽としては手が込んでいる。
きゅ、と。裾を握りながら、女神は観念したように口を開く。
「…女神としての仕事は目途がついたし、雑用くらいなら私にだって出来るから」
何時でも、何処でも。女神は慈愛の心に満ちていた。完璧な神であるなら決して浮かばない人間としての思考。
「ですが…もう女官達に知られてしまった以上、反対に気を使わせてしまうだけですよ?」
彼の言葉通りに、その場に居合わせた全員の視線が此方へと向かっており。残念な溜め息を吐いて髪を包んでいる布を取る。
「…ムウの所為よ?上手くいってたのに…」
責める女神に対して、穏やかな笑顔を見せる牡羊座は。細く白い手を取ると、そのまま甲に口付けた。
「お詫びに…美味しい御茶でもご馳走しますから」
「…もう。全然反省してないじゃない…」
結局、沙織の企ては失敗に終わり、得をしたのは廊下を偶然通りかかっただけの男。
(しかし…誰も気付かないとは…同じ聖闘士として情けないですねぇ…)
同僚数人に感謝の念を抱くと共に。その不甲斐無さに嘆息したムウであった――――。
(ムウ→沙織)
9.「いつも仕事じゃあ、気が滅入るでしょう?たまには散歩でもいかがです?」
「は……?」
呆けてしまって、手にしていたペンを落としたのは。執務室の机に噛り付いていた者。
「女、神…!?」
どれだけ精神を集中していたのか、女神の存在を気付かないとは何たる失態かと。心中で激しく落ち込む。
「ね?そうしましょう…サガ?」
それでも太陽のような微笑みを向けて、目の前に細く美しい御手を差し出されれば………。
女神神殿の奥にある、森の中へ。引っ張られるように歩み行く女神に双子座は。
困惑しつつも、触れ合っている柔らかな感触を。染み入る穏やかな小宇宙を全身で感じて。
「森林浴も、悪くないでしょ?」
木々の隙間から零れ入る日差しは、何とも心地良く。誘われるままに根元へと腰を下ろした。
「しかし、どうして…私を?」
そう。執務室には自分を含め、他にも仕事中の同胞達が居たのに。少々強引に、沙織はサガ一人に対して言葉を投げ掛けて来たのだ。
(特別だと…期待してもいいのだろうか…)
己の心が微かに浮付いているのが分かる。女神に選ばれるとは至福の極み。
「だって…ずっと働き詰めだったでしょ…?」
確かに、この双子座の兄は責任感の塊のような男であった。引き受けたものは須らく処理する。
「それに………」
そう言いながら、女神はそっと彼へと近付く。そして優しく、サガの窶れた頬に触れる。
「――――――!」
(ちっ、近いです…女神!!)
有無も言わさず、己の心臓は異常な速さを見せる。息がかかる程の近距離に迫った、白い肌に主張する桜桃。
邪な思いが充満していく。それを必死で掻き消すよう努めるけれど。頭が上手く回らない男にそれは酷だろう。
待ち構える言葉の続きに、サガは大きく喉を鳴らしたのだが。
「保険、下りませんから」(にっこり)
「………………は……??」
「シオンが、仰ってましたよ?サガは過労死するタイプだと…」
「は、あ………え?」
沙織を抱き留める準備の為、中途半端に伸ばされた手が虚し過ぎる。
「でも、残念ですが…聖闘士は『生命保険』の加入は出来ないのです…」
言葉を澱み無く並べる女神の速さに、双子座は全く対応出来て居なかった。予想外にも程がある。
「だから、少しでも休憩時間を多めに取らせる方向に落ち着きましたの」
悪気が少しも無い、澄み切った瞳が逆にサガには非情であり。膨らんだ期待感は音を立てて崩れていく。
「―――――有難う、ございます……」
そう感謝を示したサガの心の中は…号泣の嵐であった。
(サガ→沙織)
10.「何言ってるんです、いつもの貴女らしくないですよ?大丈夫、私がついてますから。」
「はぁ………」
愛らしい桜桃から出るは、全く相応しくない重い溜め息。溢した吐息に、気付いたのは双子座のカノン。
「どうかなさいましたか、女神?」
「――――え?」
無意識だったのだろう、反対に問われて。彼は戸惑いの表情で沙織を見やると。
間を取り戻すべく、冷めてしまった目前の紅茶を淹れ直そうと立ち上がる。
「何かお悩みになっている事でも…?」
「……ッ!」
ガシャン、
「女神……!!」
カノンの質問に激しく動揺して、彼女の腕は紅褐色の液体を浴びてしまった。
「ご、ごめんなさい。カノン…」
ゆっくりと濡れた細腕に触れながら、カノンは再び疑問を投げかける。
「私では…御役に立てませぬか…?」
「ち、違うわ!」
声色が切なげに響いて。沙織は咄嗟に否定の意を示し、その心を明かし始めた。
「カノン、は…好きな人…居ますか…?」
「は……?」
想像と掛け離れた女神の言葉に、彼は上手く対応出来なくて。その困惑の表情に彼女は肩を落としてしまう。
「ごめんなさい、変な事聞いて…」
「―――居ます、よ」
真意は分からないが、目の前の愛する女性の道標になるのなら。この心を曝け出しても構わないと、カノンは思ったから。
「その方に、気持ちを伝えるのは…怖くなかった…?」
両手をギュッと握り締めて、真剣な瞳で問うて来るのは。己に向けるものでは決して無い。
(――――あぁ、そういう事か。貴女の心には既に)
双子座は紫色の絹糸を、優しく撫でながら言う。
「女神なら、大丈夫です。貴女ならどんな男でも…虜になる筈ですから」
「……本当に…?」
不安気に見つめてくる双眸が、堪らなく愛しく。手を伸ばしたくなる衝動を、必死で抑え付ける。
「もし、駄目なら。このカノンが責任を取ります故」
「……どういう意味?」
彼が応えを、口にする事は叶わなかった。部屋の扉を叩く音が響き、その声主に敏感な反応を明示した為だ。
「女神…、牡羊座のムウで御座います」
「ムウ…!!」
一瞬にして、白く肌理細やかな肌は桃色に染まって行く。多少弾んだ美しい音色は、普段の凛とした女神の姿では無い。
「カ、カノン!私何処か変な所は無いかしら…!?」
身形を気にする様は、どう見ても恋する女性そのもので。先程からずっと悲鳴を上げる心を隠しながら、男は微笑む。
「…女神は今日も、美しいですよ」
「有難う、カノン」
(この、胸の痛みは…罰。禁忌の想いを、抱いてしまった俺への)
華開く満面の笑顔を向けて、沙織は駆け出して行く。その背中を見つめる眼差しが、どんなに愛情溢れるものか気付かないまま――――。
(ムウ→←沙織←カノン)