×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

今日だけは



「あ、よかったらうちで雨宿りしていきなよ」
「いいのか?」
「うん、傘とタオルのお礼」

あれから数分後、私の家まで送ってくれた彼を、そのまま家に招き入れた。雨風はまだ強かったし、何より風邪を引かれては困る。

「悪いな…」
「平気平気。あ、傘適当に置いといて」

玄関で濡れた髪を絞りながら言った。二人ともどこかしこから水滴が落ち、足元にはすぐに水溜まりが出来上がった。

「びしょびしょ…気持ち悪い。隆也、私お風呂に直行するわ。隆也はどうする?」
「俺はいいわ。タオルがあればそれで」
「そっか、じゃあごめんちょっと行ってくるね。タオル、いつもの所にあるから適当に使って」
「サンキュー」

私は玄関でびしょびしょの靴下を脱ぎ去り、できるだけ床が濡れないようにしてお風呂場に向かった。



「あー…暖まった…」

スッキリした表情で風呂場からリビングへ行けば、パンツ一丁の隆也がいた。

「寒そうね…お兄ちゃんの服貸そうか?」
「…助かる」
「了解。あ、それと制服。乾燥機入れといて。私のと一緒にやっちゃうから」
「おー」

隆也が制服を持ってその場を離れたと同時に私は兄の部屋から、部屋着を借りてきた。兄は隆也と仲がいいのでわけを話せばきっと怒らないだろう。


「はいこれ。ちょっと大きいかもしんないけど」
「おう、サンキュー……つか、お前のスッピン久々に見たな…相変わらず眉うっす…」
「うるさいよ!」

ニヤリと笑ってこっちを見てくるもんだから、私はついペシッと叩いてしまった。

「んだよ。別にいいだろ、不細工とか言ってねーんだから」
「じゃ、可愛い?」
「うーん…どうだろうな」
「何よそれー」

笑い混じりにそう返す。この自然と冗談が言い合える関係が、私には一番心地よかった。

「ね、せっかくだし雨止むまで何かしよーよ」
「いいけど、何すんの」
「んー…なんだろね。ゲームでもする?」
「ゲーム…俺シュンよりできねーよ?」
「じゃあ私が教えてあげよう」
「よろしくお願いします、先生」
「任せなさい」


とは言ったものの…。
隆也のレベルは私とそう変わらなかった。

「おい先生ー?」
「う、うるさい!何よできないとか言っといて…!あ、ちょっと!」

また隆也の勝ち。これで私は一勝二敗。いつもの悪い笑みで私を見てくる隆也に反撃するように、私も睨み返した。

「もう一回!」

次こそは、とリベンジを申し込んだら、ガチャッと玄関が開く音が聞こえた。誰が帰って来たのかと二人して振り向けば、そこに現れたのは私の兄だった。

「お兄ちゃんおかえりー」
「おー、隆也来てたんか。久しぶりだな」
「久しぶりっす。あ、服…すみません」
「いいよいいよ、気にすんなって。どーせ名前のアホが何かやらかして濡れたんだろ?寧ろこっちがすみませんだよ」
「ちょっと!私何もやってないよ!傘がね、壊れたの!」
「…お前のせいじゃんか」
「う………」

そうじゃないと、はっきりとは言いきれず、私は無言で兄を睨んだ。だが私と違って兄は痛くも痒くもない、と言わんばかりの顔で隆也と話し込んでいる。

「あ、そうだ。俺今から駅まであいつ迎えに行かなきゃいけねーんだわ」
「彼女さんですか?」
「そ、だからついでに隆也ん家まで送ってってやるよ」
「…いいんですか?」
「いいよ、車なんだし。雨も止みそうにねーからな」
「すみません、ありがとうございます」
「気にすんなって。…で、名前はどうすんの?一緒に行くか?」
「んー…行きたい」
「じゃ、さっさと着替えてこい。隆也ももう乾燥機終わってるだろうから」
「あ、はい」

兄に言われてさっさと席を立った隆也。私はゲームの電源だけ消して、兄に目を向けた。

「私この格好で行くから大丈夫だよ?」
「ダメだ、着替えてこい。風邪引いたらどーすんだよ」
「えー…?」

お風呂から上がったあと、普通に部屋着に着替えていた私は勿論このまま出るつもりだった。確かにジャージだけでは寒いかもしれないが、多分車から出ることは無いだろうと思っていたから大丈夫だと思ったのだ。

「おい名前、お前の制服どうすんの?」
「あ、ついでに持ってく。ありがと」

仕方なく着替えるために自分の部屋へ向かおうとしたとき、ひょっこりと私の制服を持った隆也が顔を出した。私はそれを受け取り、階段を小走りで駈け上がる。


それから数分後、兄の車に乗り込んだ私達は、並んで後部座席に座った。それを見計らって、車が動き出す。

「お兄ちゃんの彼女さん、久しぶりに会うなー」
「そりゃそうだ。うちん家泊まるの半年ぶりだからな」

そう言いながらバックミラーで私達を見た兄は、再び口を開いた。

「彼女と言えばさ。お前らはどうなの?付き合ってんだろ?」
「え、私達付き合ってんの?!」

兄の言葉に驚いて私は隆也を見た。隆也は苦笑いでこちらを見ている。

「俺達別に付き合ってませんよ」
「え、そうなの?俺付き合ってんだと思い込んでた…」
「家に泊まったりとかしますもんね」
「でもさーお前ら好きなんだろ?」

その言葉に一瞬頬が上気したのがわかった。
わかってる、自分が幼なじみのことを好きなことは自覚しているのだ。だけど相手の気持ちが分からない今の状態で、ホイホイと自分の気持ちを伝えられるほど強くはなかった。
どうしよう…何と言っていいかわからなくて私はギュッと目を瞑って下を向いた。こうするだけで私は精一杯だったんだ。

すると、頭上からポツリと耳を疑うような言葉が聞こえた。

「…俺は…好きですよ」



一瞬、誰のことを言っているのかわからなかった。でも恐る恐る顔を上げて彼と目を合わせた時、隆也が優しい笑みで返してきた瞬間、涙がこぼれそうになった。

「おお、隆也が男見せたな。っつーことで名前、お前今日隆也ん家泊まってこい」
「はっ?!」

先ほどの雰囲気を吹き飛ばすような兄の発言に私は耳を疑った。

「何でよ」
「いーじゃん。今日泊まって、お前の気持ち伝えてこい。お袋と親父には言っとくから」
「や、そういう問題じゃなくて…」
「隆也はいいよなー?」
「はい、寧ろ嬉しいっす」
「ほらなー?だから、行ってこい!」
「え、あっ…ちょっと!」

タイミング悪く隆也の家に着いてしまったため、私は隆也に引きずられる様な形で、連れ出されてしまった。
私は車の中でニヤニヤしている兄を見て一瞬殺意が芽生えたが、いつになく嬉しそうな隆也を見て、そんなものはどうでもよくなってしまった。
しょうがない。私も今日は、勇気を出して気持ちを伝えてみよう。





今日だけは

(春の嵐に感謝しよう)

back