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五回戦2






四回の表も順調に終わり、みんなは一旦ベンチへ戻る。すると、水分補給をする三橋と思いっきり目が合った花井は、慌てて目をそらしてしまった。三橋も三橋で、瞬間リラックス法をしようと構えた手を引っ込める。だがそのかわりに三橋は大きな声でこう伝えた。

「はっ花井くん点入れたら…勝てる!」
「うぐっ…」

一気にのし掛かるプレッシャー。花井の顔が一瞬で引きつってしまった。
そんな二人を目の前で見ていた名前は思わず吹いてしまい、それを堪えようとして、小さく肩を震わせた。

「ぷっ…くくっ……」
「…んだよ」
「や、何でも…ぷっ…」

笑いを堪えることに必死な名前を見て、花井は訝しげに眉を寄せる。

「ふふっ…あー落ち着いた。花井くん、引っ張ってね」
「え、」
「花井君の力をさ、見せつけてやればいいんだよ」
「お、おお……」

落ち着いたと言った割にはいまだに頬が緩んでいる名前だが、彼女の言っている事は理解できた。自分がどうするべきなのかがはっきりと。
打席に立った花井はグラウンドを見渡した。セカンド、ショートが中に寄って、サードも内側へ入っている。
────そういや中学んときはサードの脇をよく抜いてたな…
花井はスイングを崩すため一度、ストレートを振り回し、次の球で綺麗に脇を抜いた。その後の沖がバントを決めて1死三塁。ベンチでは、自分がチャンスで回ってくるかもしれないと緊張しきった水谷が、泉にまたまた瞬間リラックス法をお願いしていた。少々荒っぽく脇をくすぐった泉は、勢いよく水谷を送り出す。その甲斐あってか見事打ち抜き、花井がホームに帰ってきた。

「水谷やるじゃんっ」
「くすぐったからか?!」
「ど、どーする?!次から全員くすぐるべき?!」

栄口と沖が慌てて話し出す。それを名前と横に並んで聞いていた阿部は、ピクリと反応した。

「それで打てんならやろうぜ」
「え、でも隆也脇きかないじゃない」
「だからどーすっかって話だよ!」

二人の会話を聞いていた栄口と沖が次々に青ざめる。

「ええっ!?脇平気なの!?」
「そ、それどっかおかしいよっ!」
「いや、おかしくねーよ。普通にいるし!」
「っていうか、一体どこだったら効くのよ」
「俺が知るか!」
「だよねぇ」

付き合い始めて一年程経つが、実はまだ彼の弱い部分を知らない。今まで一緒に居て、くすぐったいといった素振りを見せたことがあっただろうか。思い返してみるとそんな姿の記憶はなかった。今度色々と実験してみよう。と、名前は小さな目標を心の中でたててみたりした。


『四番、センター和田君』

五回の表、美丞のバッターが竹之内、川島、石川から矢野と続き、五点目が入ったという最悪の状態で四番の和田に打順が回ってきた。
しかし和田は三球とも空振り、そのまま打席を降りた。三橋の首振りが効いたようだが、三回とも手を出したのではっきりとはわからない。

「───で、四番は一球目で首振らせて…」

ベンチで先程のことを監督に報告する阿部。その後ろではひっそりと阿部に近づく三橋がいて、名前はその様子を横目で見ていた。すると突然少し冷たい声を監督が発した。

「……ねぇ、首振らせるサインがあるの?」

しまった…。
そんな表情をする阿部。三橋はすっかり恐縮している。

「……さっきつくりました。俺の配球読まれてるっぽいから多少目くらましになるかと思って…三橋はただ頷くだけなんで」
「頷くだけ……?」

阿部の後ろにチラリと目をやる監督。その視線に答えるように、三橋はしきりに頷いた。

「全部!?」

思い切り睨まれて三橋は逃げ腰になった。しかし阿部に掴まれて逃げることはできない。一方監督は、どうにか二人の前で怒りを出さないよう気をつけたのか、顔を素早く後ろへ向けた。だが、その先には勿論名前がいるわけで。思い切り目が合った名前は無意識に顔を背けてしまった。

「………っ、」

うわ、背けちゃったよ…。
こうあからさまに背けてしまったので、戻すにも戻せずしばらく沈黙が続く。どうしたものかとチラリと視線を送ったら、監督が目の前に来ていて驚いた。

「名前ちゃん」
「な、何ですか…?」
「三橋君って最初から捕手に任せっきりな状態なの?」
「え、あ、それは…」

多少怒りが見え隠れする表情なので何を聞かれるのかと思えば先程の三橋についてで、少しホッとした。

「一番始めに隆也がちょっと……」
「阿部君?」
「まぁ…私の口から言うのはあれなので…」
「あ、そうよね。…でもそれにしたって一人に任せっきりは良くない。試合が終わってから指導しないと…」
「そうですね。そのためにはもう少し二人が仲良くなれるといいんですが…」
「じゃあまずはその方法探しね」
「はい」


一方、試合の方は少し動きがみられた。ピッチャーの竹之内に代わって鹿島が入り、竹之内はレフトに入った。
五回の裏は泉から。立ち上がりがあまり良くない鹿島は、初めのうちはストライクとボールがはっきりしているため、泉はストライクの見逃さずしっかりと振り切った。その後の栄口がバントも決め、一死二塁。次の巣山もレフト前へ飛ばすなど、それぞれチャンスを見逃していない。そして続く田島。田島も甘く入った球を見逃さずに、ボールは一・二塁間を抜けて泉がホームへ帰り、三点目。
五対三で一死一・二塁。次は五番の花井が打席へと立つ。花井の打った球は、上がりはしたものの、飛距離は十分だったため四点目が追加された。
そして向かえた六回の表。この回も三橋の首振りが効いているのか、三人で終われた。

「本当に首振りが効いてるのかな…」
「名前…」
「なんかこう…はっきりしないよね。効いてるようで効いてない感じ」

防具を外す阿部の横で、マウンドを見据えながらポツリと名前は言葉を漏らした。

「確かにな。けど、もし効いてるとしても今まで全く振らせてなかったんだから、バレるのは時間の問題だろ」
「振らせて……ねぇ…」
「…そこは今突っ込まないでくれ」
「だってどうするのよ」
「試合終わったらとにかく謝る…!」
「そっか」

そんな会話をして打席へ向かった阿部。相手の投手はまだ完全にエンジンが掛かった訳ではないようで、ボールで阿部は一塁に進んだ。だが続く水谷は手が出ずアウト。そして三橋のバントでツーアウトを取られて交代した。




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