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Greensleeves



「ねぇ、僕と付き合ってよ」

緊迫した空気をぶち壊すように隣に立つ男は飄々と、突拍子もない言葉を投げかけてきた。とは言えこの台詞は今初めて聞かされたという訳ではなく。言ってしまえばもう挨拶と何ら変わらない程言葉そのものの重みが薄れてしまっていた。

この男はいつもそうだ。
よく言えば明るい、快活。悪く言えば空気が読めない。彼からすればそれはそれは言い慣れた、言われ慣れた言葉なのだろうが世間一般的には「告白する」というのはそれなりに緊張もするだろうし、大事な瞬間の筈だ。なのにこの男は何故そんな台詞を今、こんな所で言うのか。この呪いに塗れた廃校の中で。

「…今は任務中ですよ」
「知ってるよ」

語尾に音符でも付きそうな程楽しげに階段を登る。その長い足を存分に活かして二段飛ばし、三段飛ばしとどんどん自分との差を開いていく現実に内心舌打ちを溢しながら、名前は小走りで先を行く一つ上の先輩である五条悟を追いかけた。

今回の任務は、少し前に廃校となった校舎に現れた呪いを調査し、祓う事。恐らく特級に位置するだろうという情報までは得ているが、それ以上のことはまだわかっていないという。ここまで情報が少ない状態で任務へ送り出される事も珍しいが、それ程厄介な相手であるという事も同時に受け取れる。
とは言え偶々今回は五条の都合がついた。特級呪術師であるこの男が行くのだから自分は必要ないのでは無いかと思っていたのだが、上からの指示は名字名前も同行し、五条悟を補助せよとの事だった。折角一ヶ月の海外出張を漸く終え、高専の可愛い可愛い生徒たちと戯れて癒されようと思っていたのに。

「名前、何でそんなに剥くれてるの」
「逆に何でそんなに楽しそうなんです、五条さん」
「大好きな女の子と久しぶりに一緒に仕事出来るんだよ?楽しくないわけ無いだろ」
「そうですか」

漸く追いついた踊り場で、名前は深くため息をつく。冒頭でも言ったが、何故今なのか。

「言い慣れてるのかもしれませんけど、こんな状況では落ちるものも落ちないんじゃないですか」
「じゃあロマンチックなシチュエーションだったら首を縦に振ってくれる訳?」
「私にそれは当てはまりません」
「ホラ。だから僕は何年もこうやってアピールしてるんだけど」

コツコツと靴音を鳴らして残りの階段を上りきる。丁度今三階まで来ていた。確かに強力な呪力を感じるが、校舎全体をソレが覆っていて力の源がぼんやりしてわかりにくい。取り敢えず校舎を一回りしてみて色々調べてみようという五条の言葉に頷いて、何となく歩いては居たが果たして本当に調べるつもりはあるのかと思う程五条はたわいのない会話を繰り返す。

「…もしかして今回の指示、五条さんが我儘を通したんじゃないですよね」
「指示?」
「五条悟に同行して補助せよって」
「あはは、違うよ。流石にそこまで私情を優先させないって」
「どうだか」
「信用ないなぁ」
「だって貴方のどこに補助を必要とする部分があるんです?」
「確かに僕は最強だけど、名前ももう少し自分に自信を持つべきだよ。今回僕は現場に来るまで名前と一緒なんて聞いてなかったし、名前が来るなら僕は要らなかったんじゃないかな、とも思うよ」

最強様のお言葉に、複雑な気持ちになる。名前としては自分のことは決して過小評価しているつもりはない。「準特級」などという階級を与えられている以上、それなりに力が認められているであろう事は理解している。しかしながら特級との差は歴然で、更にその特級の中でもトップクラスの男には自分の力は何の意味もないのではないかというのが正直な気持ちである。兎に角、お荷物にだけはならないよう自分の事は自分で解決しようと、それだけは強く決意した上で今ここにいる。

「僕だけじゃない、名前の力は皆んなの助けになる」

ぽん、と一度だけ頭に乗せられた大きな手。それはすぐに離れ、また飄々と廊下を進み始めた五条を名前は小走りで追いかけた。

「流石、モテ男は褒め方もスマートですね」
「惚れた?」
「いえ」

身を屈め、ニヤリと口元を緩めて覗き込んでくる男に、呆れたように否定の言葉を口にする。168センチと、女の中では比較的高い方ではあるのだが、それでも隣に立つ男との身長差はかなりのもので目線を合わせるだけでも大変だろうなあと人知れず考えてみる。
すると、不意に五条が足を止めて扉に手を掛けた。

「音楽室?」
「みたいだね。ちょっと入ろうよ」

ガラガラと戸を開けると、まだ色々と物が置かれたままの教室が目に入った。取り壊しは来月から始まる予定らしいが、グランドピアノや楽譜、他の楽器などまだまだ使えそうな物が並んでいて、つい先日まで少ない生徒達が楽しく音楽を学んでいたであろう情景が目に浮かぶ。

「名前、ちょっと弾いてみてよ」
「は?」

グランドピアノの蓋を開け、五条がトントンと指で叩いて見せた。こんな事をしている場合じゃないのでは?とまた抗議の言葉が出かかるが、何故だか拒む気が起きずに目の前の男に流されるままに椅子に腰を下ろしてしまった。五条は楽しげにピアノに身体を預けて名前に意識を向けている。


静寂の中哀しげな、美しい音色が教室に響く。三分半程度の曲を弾き終え、ゆっくりと鍵盤から指を離れさせると、パチパチと静かな拍手が降ってきた。

「綺麗な曲だね。寂しい感じもするけど、凄く心に響く。相変わらず名前は上手いなぁ」
「ありがとうございます」
「なんて曲?」
「Greensleevesというイングランドの民謡ですよ。かなりアレンジを加えましたが」

鍵盤蓋を下ろし、その場に立ち上がる。ここ最近ピアノに触れる機会どころか音楽に触れる機会がなかったせいか、久しぶりに鍵盤に触れて名前も気分が随分と落ち着いた気がした。やはり自分には音楽が必要不可欠なのだと改めて思い知らされる。

「そう言えば初めて会った時も名前はピアノを弾いてたね」
「そうでしたっけ」
「忘れちゃったの?酷いなぁ」

音楽室を出て、二人は再び歩き出す。

「…五条さんは何故私にこんなに構うんです」

今まで五条の気持ちから逃げるばかりで、そういえば理由は聞いたことが無かった。ふとそう思い、名前はポツリと尋ねてみる。

「キミに興味があるからだよ」

存外あっさりと切り返された言葉に、名前ははぐらかされたような気がして視線を廊下の先へと移した。

「モテる男は自分に靡かない女を大抵面白がりますよね」
「僕をその辺のモテ男と一緒にしないで欲しいなぁ」

そんなにモテ男がほいほい居てたまるか。名前は眉を顰めて改めて隣を歩く男を見上げた。

「じゃあ何ですか」
「顔が超タイプ」
「余計タチ悪いわ」

布で隠れて視線の行方はわからないが、恐らく目線を合わせられているのだろう。顔をグッと近づけられ、放たれた言葉に名前は唖然とした。

「何で?嬉しくない?」
「嬉しくない事はないけど…」
「名前は?僕の顔タイプじゃない?」
「顔面偏差値は高いと思いますけど、好みではないです」

全てに当てはまる訳では勿論無いが、男は外見で、女は内面で相手を選ぶとよく言うがここまで清々しいくらいにそれに当てはまる男がこんな身近に居たとは思いもよらなかった。とは言え、こんなにキラキラした男が何故自分の顔なんかを選ぶのか。この深い深い紅の髪の毛を除いて、別段変わった顔をしているつもりのない名前からしたらなんとも理解し難い理由ではある。よっぽど髪の事に触れられる方が納得はいく。

「…あ、変な勘違いしてそうだから補足するけど。美人だからとか可愛いからとかそういう意味で顔がタイプって言ったんじゃないよ」
「意味がわからないんですが」
「勿論名前はすっごく美人だし、髪も綺麗だ。最高。でもね、名前は内側にあるものが特に綺麗なんだよ。説明が難しいんだけど、引き寄せられるというか、不思議な魅力がある。そういうのって見た目にも勿論影響を与えると思うんだよね」

これはもしかして褒め殺しというやつだろうか。流石に少し恥ずかしくなり、名前は慌てて顔を晒して頬をさすった。恐らく朱が差しているであろう頬を擦る事でなんとか誤魔化そうとしたのだ。

「…なにその顔超可愛いんですけど」
「辞めてください、恥ずかしすぎて死にそう」

再び覗き込まれそうになり、名前は迫り来る五条の顔を反対側へ押しやった。
今までも、そうやって可愛いだの綺麗だの言葉をくれる男はいた。勿論嬉しくない訳ではないが自分の特殊な能力のせいで名前の方から深く関わる事を拒絶してきた。身体を繋げる関係になった男も居たが、名前が心を閉ざしたままである事が原因で長く続いた事はない。
しかしながらこの、五条悟という男を目の前にするとどうしても決心が鈍りそうで、心を乱されてしまいそうになるのだ。だからこそ、特に強く拒絶してきた。

また五条の方が何やら口を開いて言葉を紡ごうとしたところで、校内の異変を察知した。
途端に二人は一気に表情を変えてある一点をジッと見つめる。

「…居たね」
「帳を降ろします」
「よろしくー」
「特殊条件は何かありますか」
「僕が全力で呪力ぶっ放しても破れないくらいかたーい結界かな」
「そんなもの存在するとでも?」
「キミなら簡単でしょ。後は任せるよ」

そう言って一足先に呪いの元へ向かっていった五条。その後ろ姿を横目に、名前は一度深く息を吐いてから印を結んだ。呪力量から察するに五条が全力でぶつからなければならない程の相手ではないだろう。しかしながら一応用心するに越した事はないと、それなりの強度で校舎全体を結界で覆う。

結界を貼り終え、五条の元へ向かった名前は教室の扉を開けた。するとその瞬間五条の目の前に蠢く呪霊がいくつかに分裂し、散り散りになったのを目視で確認した。

「…何やってるんですか」
「ごめんごめん、油断した」

散り散りになった呪霊は、決して五条が攻撃してバラバラの肉片になったという意味ではない。恐らく自主的に分裂し、四方八方に逃げていってしまったのだ。やはり少し特殊な呪霊らしい。

「別に名前と一緒にいる時間を稼ごうと思って仕事増やしたんじゃないよ?」
「言い訳はいいですから、ここからは別々に行動しましょう。個々に払っていかないと日が暮れます」
「ええー」
「駄々をこねてもダメです。私は早く帰って生徒達に癒されたいんです。それに日下部先生にもお土産渡さなきゃ」
「僕には?」
「…一応あります」
「なんだ。じゃ、早いとこ片付けますか!」
「では私は校庭の方に出ます」
「気配全部追えるの?」

表情は相変わらずわからないが、声色から目を丸くしているのだろう事は想像がついた。五条の言葉は決して馬鹿にしたものではなく、ただそう純粋に感じた事なのだろう。それ程、今回の呪霊は気配を隠すのが上手い。しかし、四方八方に飛び散ったせいか力も分散され、先程までと比べると格段に気配を追いやすくなった為、名前は個々に動く事を提案した。

「今なら辛うじて。全部で八体に分かれたようですね。校庭に二体、屋上と食堂、音楽室にそれぞれ一体ずつ、残りは西校舎と体育館で蠢いているようです」
「校内地図全部頭に入れてるのも凄いけど、あの一瞬で飛び散った先全部把握してんのもやばいね。ウケる」
「バカにするにしてももう少しオブラートを分厚めにしてもらってもいいですか」
「バカになんかしてない。名前がいなかったら僕はまた一つ一つ校内探っていかなきゃいけなかったんだから、感謝してるよ。それじゃあ、名前は校庭の二体お願いね。後は僕が全部片付けるよ」
「全部ですか?それに…私が誤認しているかもしれないのに」
「それはないでしょ、名前の力は他の誰よりもわかってるつもりだよ」

僕にも格好つけさせてよ、と緩く手を振りながら五条は来た道を戻っていった。恐らく一番近い音楽室から片付けていくのだろう。
五条の言う通り、恐らく名前の力を一番見切っているのは彼だろう。勿論自分の能力全てを話した事は誰にもないし、全てを話していないという事に気付いているのはごく一部であろうが、五条に関しては感づくどころかどんなものかも把握しているに違いない。あの六眼を前にするとどうしてもひやりとしてしまう。何度か彼の透き通るような美しい碧眼を目にした事があるが、色んな意味で毎回ドキリとさせられる。あの瞳を通した自分は一体どう映っているのだろうか、と。

「…今は集中しよう」

ふと我に返り、名前は頭を軽く振って三階の窓から校庭へ飛び降りた。久しぶりにこんなに長く二人でいたせいか、余計な事を次々と考え込んでしまう。早く任務を終わらせていつも通りの生活に戻りたい。そう強く心の中で念じながら、気配のする方へ身体を飛ばした。


二体目を消し炭にしたところで、背後から派手な爆発音が聞こえてきた。あれは体育館か。あまり派手にされてしまうと折角の備品が壊れてしまうな、と懸念しながらも最後の一体が隠れているであろう屋上を名前は下から睨んだ。五条も既にそこに向かっているようで、とんでもないスピードで力が移動していくのがわかる。自分も加勢するかと悩んだがそれこそが邪魔になるだろうと、大人しくサッカーゴールの上に腰掛けて様子を窺う事にした。

「あ、名前やっほー」

屋上のフェンスの上に立ち、呑気に手を振る特級呪術師。相変わらず緊張感のない人だと呆れながらも小さく手を振って返す。すると何を思ったか、急にその長身の男は呪霊を放ったらかしにして目の前に現れた。宙に浮いてはいるが、確かにそこにいるのは五条悟本人である。スピードの割に風もそう立たず、微かに揺れた紅い前髪を無意識に押さえながら、名前は言葉を失ってただただ目を丸くした。

「…な、」

何をしてるんですか、と喉元まで出かかって、名前は一瞬殺意にも似た呪力を感じ取り、意識を移した。いつの間に飛んできたのか五条の背後に八つの目を持った紫色の生き物が迫っていたのだ。

「五条さん!」

咄嗟に叫んだ言葉は強烈な破裂音にかき消されてしまった。真っ赤な力の塊が、その呪霊を空に押し上げるようにしてぶつかり、灰も残らない程に焼き尽くしていっている。それはほんの0コンマ数秒の話だっただろう。しかしそれに対して力の大きさは比例せず、ここにいては自分も巻き込まれると、名前は瞬時に把握した。それ程までに呪霊とも五条とも距離が近かったのだ。名前は五条の名を呼んだとほぼ同時にその場から立ち上がり離れる状態にあったが、不意に何かに身体を抱きすくめられ、気付いた時には離れた場所にいた。

「全く、僕と名前の邪魔しないで欲しいよね」

その場に似つかわしくない軽快な声が耳元で聞こえた。そこで気が付く。自分は今横抱きにされて呪霊が祓われていく姿を見ているのだと。

「色々突っ込みたい事が山積みなんですが、とりあえず降ろしてください」
「やだ」

予想はしていたが、五条は離すどころか名前を抱く腕に力をこめてきた。そうこうしているうちに呪霊は全て消滅し、気配も全て消え去った。それと同時に五条の術式も消えていき、あっという間に静寂が訪れる。

「いやぁすごいねー僕の術式が当たっても壊れないや。名前の結界」
「貴方が望んだんじゃないですか」
「うんそうだね」

何故かとんでもなく嬉しそうな五条を前に、名前は抵抗する気を無くして大人しく腕の中に収まる。ずっと抱えていたら重いだろうに、五条は大人しくなった名前に更に気を良くしたようで、あろう事かそのまま歩き始めた。

「ねぇ、このまま婚姻届出しに行こうか」
「…笑えない冗談ですね」
「やだな、本気だよ」
「……」
「え、この状況って結構ロマンチックじゃない?」
「少女漫画でお勉強が必要ですね」

後処理をお願いしようと、五条に抱かれたまま名前は携帯を取り出して伊地知の名前を検索する。そのまま番号をタップし、数コールで聞こえた覇気のない声に薄く笑いながら、軽い結果報告と後処理をお願いする。

『了解しました。お二人ともご無事で良かったです』
「無事じゃないよ…伊地知君助けて。五条さんの回収に来て」
『そ、それは…出来かねます…』
「伊地知君も大変だね…あっ、ちょっと!」
「何堂々と人の悪口で盛り上がってんのさ、切るよ。伊地知、詳しい事はまた帰ってからな」
『はい、お気を付けて』

不意に取り上げられた携帯電話。持ち主の意思を無視して、会話が一方的に切られてしまった。しかしある程度は予想の出来たことなので早々に名前は抗議する事を諦め、逆に携帯を奪うために片手を離した五条から漸く離れる事が出来た事を喜ぶことにした。五条も態々抱え直すつもりはないのか、両足が地面についた名前の尻ポケットに先程奪った携帯電話をするりと仕舞う。

「…何であの時急に私の目の前に現れたんですか」

大人しく屋上で祓っていれば、この男に横抱きにされる必要も無かったのに。そう半ば睨むようにして見上げると、目の前の男は嬉しそうに名前の頭を撫で始めた。

「まさか手を振り返してくれるなんて思ってなかったから、咄嗟に体が動いたんだよね。いやぁ、可愛すぎるってホント罪だよ」
「はぁ…?」

もう何を言っているのか、いよいよわからなくなってきた。言葉はきちんと聞き取れているのに、意味がまるで伝わらない。そんな気持ちの悪い状況に顔を歪めると、五条は「そんな顔するなよ」と名前の横髪を掬って耳にかけた。

「あれ、ピアスどうしたの」
「え、無くなってます?」

耳朶をやんわりと摘まれて、漸くそこに何もぶら下がっていない事に気が付いた。恐らく先程の衝撃で飛んでいってしまったのだろう。名前は慌ててそこに手をやると、ガックリと肩を落とした。

「あーあ、気に入ってたのに」
「探しに戻る?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあさ、今度一緒に新しいお気に入り見つけに行こうよ。買ってあげる」

確信は無かったが、何故だか五条は断られる予感はしていなかった。楽しげに目の前の愛しい人の顔を覗き込むと、案の定複雑そうな顔をしている。恐らく色んな気持ちと戦っているんだろう。そんなところも可愛くて仕方がない。

「…わかりました、うんと良いやつお願いしますね」
「任せといてよ。休みはいつ?」

照れ隠しもあるのだろうが、名前らしい返答の仕方に五条はニヤリと口元を緩める。

「明日です」
「え、明日?急だなぁ」
「私昨日まで海外出張だったの知ってるでしょう。ほぼ一ヶ月ぶりの休みなんですよ?そんな貴重なお休みを五条さんにあげようという訳なんですから」
「オッケーオッケー。愛しの名前ちゃんの気持ちにはちゃんと応えなきゃな。明日の任務そっこーで終わらせるから、午後からデートね」
「デートではないです」
「僕にとっては大事なデートだよ。絶対惚れさせる自信あるから、心配しないで」

そんな心配誰もしていません、と普段の名前なら咄嗟に返しているが、何故だかそう言い返す気に今はなれなかった。
もしかしたら、この男とならなんとかなるかもしれない。理解し難いが、五条の放つ言葉は本心から出たものだ。何故その相手が自分なのか。勿体ないやら申し訳ないやら、色々と引け目を感じる部分は多々あるが、名前にとって五条悟という男の存在は日に日に心の中で大きくなっていっている。そんな気持ちに素直に従っても良いのだろうか。ついそんな事を考えてしまい、名前は頭を軽く振った。

「名前、帰ろう」

先に歩き始めた五条が当たり前のように、手を差し伸べてきた。名前はまた一瞬躊躇う素振りを見せたが、それを拒む事はしなかった。

重ねられた手。自分と全く大きさが違うという事実に、互いに何とも言えない気持ちが芽生えた。




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