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俺が中学一年の時、母親の念願叶ってようやく女の子が生まれた。俺と旬は一つ違いだからもう産む気は無いんだと思っていたのに、やっぱりどうしても諦めきれなかったようでこれで最後だと心に決めて踏み切った結果、13離れた妹が出来た。俺を含め周りの人達は皆勿論驚いたが、何よりも妹が出来たという喜びの方が大きく、両親と同じくらい可愛がった。とはいえ、思春期真っ只中の俺には人の目がある所で大っぴらに可愛がるまでの勇気はなかったので傍から見たらそうは見えなかったかもしれない。旬から隠れシスコンなんて言われたこともあったが、人の事言えねぇだろと返しておいた。




そんなこんなで、妹が生まれて早いことに九年が経った。妹…名前は小学三年生に、俺は卒業を控えた大学四年生だ。俺の方は無事内定をもらい取り敢えずは安心といったところで、あとは問題さえ起こさなければ春から社会人になれる。そんなある日、今日はもう四限で終わりな上明日の講義が急に休みになった事もあって、余裕のある奴何人かで飲みに行こうと話が出ていた。

「阿部ー、お前も行くだろ?」

いそいそと帰り支度を始めていた俺に話しかけてきたのは泉で、後のメンバーは水谷の他はここの大学で知り合った奴らが三人程いるようだ。西浦野球部からこの大学に来たのは泉、水谷の他にも何人かいるが、今日は都合がつかなかったらしい。

「あー、今日はパス」
「はぁ?お前今日バイトも休みっつってただろ」
「用事があるから休んだんだよ」

そう言って筆記用具を鞄に入れてチャックを閉めた。携帯で時間を確認し、席を立つ。そこで急に泉の後ろで俺の返事を待っていた他のメンバーがぞろぞろやってきて、泉に結果を尋ねていた。

「どうだった?」
「行かねーってさ」
「なんだよー。阿部、車で来てんなら一回家に置いてきていいぜ?」
「車で来ちゃいるがそれが理由じゃねーよ」
「じゃあわかった!女だ!女だろ!」
「まぁ…女っちゃあ女だけど…」
「なんだその曖昧な返事」
「彼女って意味ではねぇって話だ」
「それってどういう…」
「…あっ、わかった名前ちゃんだろ!」
「ああ、そういう事…」

暫く黙って話を聞いていた水谷が急に声を上げた。その口から発せられた名前を聞き泉も納得したらしく、腕を自分の胸の前で組んで若干呆れたような表情を俺に向けてきた。

「まぁな。今日名前の誕生日なんだよ」
「へぇーそうなのか」
「おめっとーさん」
「どーも。じゃ、俺ケーキ屋寄って帰らなきゃなんねーから」
「サプライズか?」
「いや、名前から頼まれてさ。苺がいっぱいのったケーキで、ロウソクも数字のやつ買ってきてって」
「使われてますなぁ、お兄チャン?」
「いーんだよ。好きでやってんだから」
「相変わらず甘いな」
「うるせ。じゃーな」
「おー」
「じゃーねー」

ようやく解放され、俺は急ぎ足で学校の駐車場に向かった。大学で友達になった奴らは俺の妹の事は知らなかったようで会話についていけていなかったらしいが、俺が去ったあと泉と水谷を質問攻めにし、一応は理解したと後から聞いた。ただ一つ、初め泉が説明を面倒くさがって「シスコンだ」と一言で片付けようとした事に対しては、誤解を招くような発言はするなと説教しておきたい。





「ただいまー」
「おかえりなさいケーキ!」
「俺じゃねーのかよ」
「ケーキ!ケーキ!」
「落とすなよ」

玄関を開けると、車の音が聞こえたからか既に待機をしてケーキを受け取る為に手を出している名前が目に入った。小学校に入ってからというもの、名前は年々学校で色々な事を覚え、ませガキへと近づいていった。女の子という事も相俟ってか口も達者になり、随分と可愛げのない言葉を発するようにもなったがそれでも許してしまう自分がいて、我ながらどうしようもねぇなと思う。

「苺のケーキにしてくれた?」
「ああ。生クリームでいいだろ?上はちゃんと苺飾りだ」
「ふーん。ま、それで手を打ってあげる」
「可愛げねぇなァ…」
「お兄ちゃんよりマシよ」

俺から受け取ったケーキを両手で持って、嬉しそうにキッチンへ向かう名前。その後ろをついて行きながら俺は妹の言動の不一致を可笑しく思い、顔がにやけてしまった。しかしニヤけているのが見つかった時がまた面倒なので、片手で自らの口元を隠していたらそれを偶然見てしまったらしい旬から、冷たい視線を食らってしまった。

「あ、名前ちゃんケーキ冷蔵庫に入れておいてくれる?タカ、おかえり」
「ただいま」
「丁度よかった。もうすぐ夕飯出来るわよ」
「親父は?」
「少し遅くなるって。でも必ず間に合わせるって言ってたわよ」
「親父も名前に甘いよなー」
「アンタだって相当よ」

そう言って肩を竦める母親を一瞥し、俺は先に風呂に入るべく準備をしに二階へ上がった。
風呂から上がると、丁度テーブルセッティングが終わろうとしているところだった。流石、誕生日会なだけあって並んでいる料理も豪華だ。いの一番に席についていた名前は目をキラキラさせて手足をそわそわさせている。早く食べたいと言わんばかりに俺にも視線を向けてきたので、苦笑しながら俺も席についた。

「もう食べたいなぁ」
「親父がまだなんだからもうちょい待て」
「いいわよ。先に食べちゃいましょ」
「いいのか?」
「だって折角の料理が冷めちゃうし、いつ帰ってくるかはっきりわからないらしいし」
「そーだよ食べちゃおうぜ!」
「…や、いいならいいんだけどさ」

結局残りの二人も名前中心で考えている。今日の主役だから、というわけじゃなくていつもこんな感じだ。

「美味いか?」
「うん!」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」
「隆也お兄ちゃん」
「なんだ」
「これ、ちょっと辛い」
「じゃあ俺のと交換しようぜ。こっちなら食えるだろ」
「うん。えへへ、やったー」

こんなに家族ぐるみで甘やかして育てて、将来が心配だと誰かに言われた事もあったが決して両親は間違った教育はしていないと思うし、何よりも名前が喜ぶ姿が見られればそれでいい。
今日買ってきたケーキも、喜んでもらおうと名前に一つだけ内緒にしている事がある。実は店頭で生クリームを苺クリームに変えられる事を聞き、お願いしたのだ。上もフルーツ飾りではなく苺オンリーにし、周りにもいくつか飾ってもらった。多少値は張ったが、名前の笑顔が見られるならなんてことはない。プラスで「お兄ちゃんありがとう!」なんて台詞があれば尚良しなんだが、まぁそこまでは期待しないでおこう。ケーキを食べる時間が、楽しみだ。





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