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#08




「んで?どうすんの」
「…とりあえず寝る」
「寝るのかよ」
「だって眠いし…明日に響くの嫌だし」
「それは俺もそうだけど……まぁ、こんな時間にメールなんかしてくる方がどうかしてるしな、寝るか」
「うん、寝よ。ごめんね、起こしちゃって」
「お前のせいじゃねぇよ…おやすみ」
「おやすみなさい」

案外藤岡に対して適当に接しているのだと改めて覚知させられた阿部は、名前に続いて布団を被り直す。今度は随分中が暖まっていて、すぐに眠りにつく事が出来た。






次の日、案の定藤岡は休み時間に名前のいる七組へやって来た。さすがにクラスの人も慣れてきたのか、彼が名前を呼んでも動揺したり振り返ったりなどという反応は何一つ見せない。もうこの状況が日常になりつつあるのか、という事に衝撃を隠せないまま、名前は嫌々席を立った。

「おはよー名前ちゃん。メール、読んだ?明後日遊び行かない?」

今の時間になっても返信していないのだから、その誘いにあまり乗り気ではない事くらい察して欲しいところだが、さすがにもう藤岡にそんな期待はしていない。名前は短く息を吐いて困ったように眉を寄せると、藤岡を見上げた。

「…ごめんなさい、部活があるので遊びに行ったりは難しいです」
「タカヤ君が一緒でも?」
「隆也がどうこうという話ではなくて、一日空けておくのは難しいって事なんです。まぁ二人きりで出かけるのはちょっと…っていう理由も勿論ありますが…」
「…そっか」

しゅん、と項垂れる藤岡が一瞬わんこに見えてしまったのは彼の才力だろうか。本当にたちが悪い。
名前はうっかり流されてしまわないようにもう一度断りをいれると、教室へ戻ろうと踵を返した。するといきなり腕を掴まれ、それを阻止されてしまった。

「名前ちゃん!」
「………なんでしょうか」
「一つだけお願いがあるんだけど」
「…一つだけ…でいいんですか?」
「何個でもいいの!?」
「あ、いえ…さっきのは無しで」

急に改まって話を切り出すものだから、つい余計な事を尋ねてしまった。危ないところだったと胸を撫で下ろすと、名前は体の向きを戻して藤岡を見上げた。

「…何か、名前ちゃんの物が欲しい」
「………物…?」
「あっ、別に処女とか言わないよ!」
「当たり前です」
「出来たら腐らない物がいい。ずっと手元に置いておけるような物で」
「…何で急に?」

訝しげに首を傾げると、藤岡はポツリポツリと言葉を零していった。

「……実は俺、来週の頭に引っ越すんだ」
「え、この時期に?しかも来週頭ってあと三日じゃないですか」

あと三ヶ月もしないうちに卒業だというのに引っ越しとはまた奇矯だと名前は目を瞬かせた。そもそも受験はどうするのだ。こんな微妙な時期にゴタゴタするのは何のメリットも無いのではないか。とは言ってもおそらく家庭の事情なのだろう。余計なお世話かもしれないが、名前は少しばかり同情してしまった。しかしそんな同情も必要なかったとすぐに思い知らされる。

「家庭の事情ってのもあるけど、引っ越し先の近くの学校にスポーツ推薦で願書出してたから…」
「スポーツ…推薦…」

何だそれは。私に大学まだ決まってないとか言っておきながらもう願書提出して試験を受けるだけだったなんて。じゃあ何故わざわざ嘘を付いたりなんかしたんだ。
と、口に出しそうになり無理矢理押し込めた。これ以上追求したらまた面倒な事になると踏んでの事だ。

「だからどうせ引越ししなきゃいけないなら試験日に間に合わせようって事になって来週頭にね…」
「そうなんですね…でも何故私の私物なんかを?」
「そりゃ記念だよ!最後の思い出に!ダメ?」
「ダメじゃ、ないですけど…」
「ありがとう!」
「えっと…じゃあ……これでいいですか?」

名前はポケットの中を手探りし、ふと手に触れた物を藤岡に手渡した。それを目にした藤岡は宝物でも掘り当てたような顔で受け取り、手中に収めた。そして空いた手で自身のポケットに手を突っ込むと、携帯を取り出す。

「ありがとう!ね、あと写真だけ、写真だけ撮ってもいい?」
「…一つだけじゃないんですか」
「お願い!」

名前が了承するより早く、グイッと腕を引かれると、一瞬藤岡の肩に寄り添う形になったかと思えばシャッター音と共にその感覚も無くなった。

「ありがとう名前ちゃん!向こうの学校で自慢するわ!」
「……はぁ」

あまりの一瞬の出来事に、抜けた返事をする名前。しかし藤岡はそんな事はお構いなしに、力一杯彼女と握手をすると勝手に去っていった。呆然とその後ろ姿を見つめる名前だったが、しばらくして我に返り、教室へと駆け込んだ。





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