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#07



そこまで長い時間ではなかった。実際経った時間は。しかし二人の間に流れた時間は結構なもので、唇を離した頃には何故だかお互い不思議な感覚に陥っていた。

「…っはぁ…」
「…ふ、」

トロンとした目で阿部を見る。すると阿部は苦笑し、身体を起き上がらせてから名前の脇に手を入れて自らの足の上に乗せた。丁度、太腿辺りだ。

「…下着」
「?」
「さっきの着てんのか」
「…ああ、お風呂入る前に見せたやつ?履いてるよ」

徐に吐き出された言葉に、名前は首を傾げた。

「…そうか」
「ふふ、見る?」
「やめろ…襲うぞ」
「それはやだな」

ブラは着けていない為、名前はニヤリと笑いながら自分のズボンに軽く手をかけた。勿論冗談だし、それは阿部も分かっている。しかし、もしも本当に見せつけられた時はどうなるか責任が取れないので、阿部は一応拒否した。

「…はぁ、寝るか。今何時だ?」
「十二時ちょい前」
「……寝よ寝よ、電気消すぞ」
「あっ、待って」

阿部がリモコンに手を伸ばしかけたところで、名前は慌てて阿部の上から降り、明日の準備を軽く済ませた。明日の朝は阿部と共に出ると約束した為、いつもの朝練がある時よりは遅いが、少しでも朝からバタバタしなくて済むようにという考えからの行動である。

「いいよ、消して」

名前の言葉を合図に、一瞬で部屋が暗くなった。既に毛布に包まり眠る体勢を整え始めていた阿部のすぐ横に名前も潜り込み、体を密着させる。冬場という事もあり、いくら部屋の中が暖かくても布団の中はヒヤッとして、名前は身を縮こませた。

「…さむ」
「直あったまるだろ」
「……体温…」
「やれるか」
「…足挟んじゃおう」
「高くつくぞ」

そう言いながらも阿部は名前の両足を受け入れ、挟み込んだ。そして片腕を回して彼女の体全体を抱き込むような体勢になる。一方で名前はギュッと身を丸め、阿部に身を任せた。体温を頂戴などと冗談で言ったが、互いに自分の熱を分け与えるくらいの気持ちで、瞼を下ろした。








深い眠りに誘われている最中、突然のバイブ音に阿部は慌てて目を開けた。しかし眠りについてからまだ二、三時間しか経っていない為物凄く頭の回転が鈍い状態で、誰の携帯が震えているのか理解するのに随分と時間がかかった。三度振動した後に、青のランプが点滅しているところを見るとどうやらメールらしいが、まだ辺りも暗く、その点滅を頼りに手探りで携帯を掴んで開く。

「……んだよ、名前の携帯じゃねぇか」

自分のではなかったので、メールは開かず携帯を閉じる。それのついでに時間だけ確認すると、夜中の二時を示していた。よほどの事がない限り、こんな時間にメールなど普通はしない。緊急かとも思ったが、それならメールではなく電話を寄越すはずだ。その見地からいくと、隣で眠る名前を起こす程ではないと考え、阿部は携帯を元の場所に戻そうとした。ところが。

「…ん、ごめん…私の携帯…?」
「ああ、何かメールっぽいぞ」

阿部が起こすまでも無く、薄く目を開けた名前が点滅する携帯を見つめて呟いた。「何だ起きたのか」とその携帯を渡すと、彼女はメールを開いた。

「………」
「どうした?」
「…先輩」
「はぁ?藤岡?」
「うん…」

まさかの人物に唖然とする阿部の横で、呆然と携帯を見つめる名前は、本文を読んで更に呆気に取られた。

「…はぁ」
「そいつ、何だって?」
「そのまま読むの面倒だから要約すると、暇だから明後日遊びに行こうってさ」
「いや受験勉強しろよ」

阿部の突っ込みは尤もであるが故に、名前は苦笑せざるを得なかった。メールの内容は遊びに誘う以外にも細かに色々書かれていたが、その殆どが自身の現状報告で、阿部に読み上げるまでもない。そんな事よりも眠りを妨げた詫びの一つでも欲しいところだ、と名前は深いため息をついた。


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