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#06




「…なぁ、あいつの事…客観的に見てどう思う?」
「客観的…?」

ベッドに仰向けになったまま、天井を見つめながら阿部が呟いた。名前はゆっくり彼に近寄り、阿部の腰元に座って考え込んだ。名前が座った反動でベッドがギシッと鳴り、阿部の体が少しだけ揺れる。

「えー…まぁ、そこそこ格好いい方なんじゃない?多分天然だし、それが可愛いなと思える人は多いかもね。あの外見で」
「…そうか」
「……どうかした?」
「いや…」
「もしかして…気にしてる?藤岡先輩の事」

少しだけ、沈黙が流れた。しばらくしてから阿部が短く息を吸い、ポツリと言葉を零す。

「気になってねぇと言ったら嘘になる」
「やっぱり…。隆也、頑なに先輩どころか、名前すら呼ぶの拒んでるもんね」
「あー、なんかな、呼びたくねぇんだよ」
「ふふ、嫉妬?」
「そうじゃなくて…」
「…わっ」

寝そべった状態で名前の片腕をぐいっと引くと、いきなりの事で対応しきれなかった名前は、阿部の胸に倒れ込む形になった。かろうじて空いている腕で自分の体を支え、伸し掛かる事だけは避ける。

「…心配…なんだよ、多分」
「心配って…?」

どういう意味かわからず、首を傾げる。しかし、阿部はそれ以上何も言わずに口を閉ざした。けれども目線では必死に何かを訴えているのが手に取るようにわかる。

「…言ってくれなきゃわからないよ」
「……」
「隆也」

解放された片手で、頬をぷにっと引っ張る。するとすぐにやり返された。しかし力加減がどうにも平等ではない気がする。

「い、いだ…っ、いたたたた…っ」
「…プッ」

あまりの痛さに驚いて、名前は阿部の頬を摘まんでいた手を離し、自分の頬を抓る阿部の手を引き剥がした。思ったよりあっさり手を離してくれたのは良かったが、じんじんと頬の痛みは続く。名前は体を起こして、その痛みを和らげようと両手でしきりに擦った。

「もー……うわっ…!?」

またもや体を引っ張られた。想像がつくと思うが、両手で頬を擦っていた名前は案の定、阿部に引かれるがままの状態で。頭が「支え」の指令を出す前に、顔を阿部の胸にぶつけることとなった。これがまた地味に痛い。

「…ちょ…っと、何…どうしたの」
「別に」
「嘘、意味も無くこんな事する人じゃないでしょ」

頭を押さえられている状態なので、下から睨みつけるような形になってしまったが、名前は阿部から視線を外さなかった。阿部も、視線は外さない。

「……」
「………」
「………はぁ、」

暫くその状態が続き、阿部がようやく息を吐き出した。

「…悪ィ」

頭を押さえる力が緩んだ。その隙に、名前は阿部の横に腕をついて体勢を取り直す。

「…冷静になって考えてみたらすげー恥ずかしくなってさ…どうしていいかわかんなくなってた」
「恥ずかしい…?」
「……笑うなよ」
「内容によるかも」
「じゃあ言わねぇ」
「…じゃあ我慢してみる」

一呼吸置いて、阿部がポツリと呟く。

「……お前が、あいつを選んでどっか行っちまうのを想像して一人で少し心配になってた」
「……藤岡…先輩を…?」
「…ああ」
「……ぷっ、ふははっ、ふふっ…」
「てめー笑うなっつったろーが」
「ごめ、んっ…ははっ…」

想像もしていなかった事を言われ、名前は思わず吹き出してしまった。阿部はそんな彼女を、困ったような恥ずかしいような、そんな表情で見上げている。

「…ふふっ…隆也らしくないね…そんな事思うなんて」
「ああ、俺も驚いてる。あーもーくそっ」
「選ぶわけないよ。私は隆也の方がいい」
「……」
「安心出来るように一晩中隆也の好きな所でも挙げていこうか?」
「ヤメロ」
「あははっ」
「…すまねぇ、名前」
「ん?」

楽しそうに笑う名前の頬を、阿部はゆっくりと撫でた。

「…疑ってるとか、そんなんじゃなくて、」
「わかってるよ、隆也だって人間だもん。私だってこれから不安になる事あると思うし、その度に二人で再確認していったらいいでしょう?」
「ああ」
「私の事信じてないの?とかって怒ったりするつもりもないよ。というか怒る気全然起きない。怒る必要性を感じない。寧ろちょっと可愛いな…とか思ったり」
「オイ」
「ふふ、ごめんって」

撫でる手に、名前は自分の右手を重ねた。目の前の阿部も、もう穏やかな表情に戻っている。

「…でも、また何で今回そう思ったの?」

ふと、不思議に思ったことを尋ねた。今までの阿部から考えて、今回のケースは随分稀だと感じたからだ。

「…後で話す」
「後…って……ん、」

グッと阿部の右手で頭を押されて、唇が重なった。咄嗟に目を瞑った名前は、暫く重なり合った唇の間からスルリと差し込まれた舌の動きに全神経を集中してしまう事となり、反抗する事すら、儘ならなかった。


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