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#05




ああ、そうだわかった。注意を促したかったんだ。「気をつけろよ」と。

「名前」
「ん?」
「俺に見せる分には一向に構わねーが、あんまり男を刺激するようなのは控えろよ」
「刺激…されるの…?…これで?」
「興奮する奴はする。だから気をつけろ」
「…わかった」
「俺は別にそれ嫌ってるわけじゃねぇぞ」
「あはは、好み?」
「嫌いじゃない。だから一緒に風呂入ろうぜ」
「今日は別がいい」
「…チッ」

流れで上手くいくかと思ったが、そう人生は甘くないようで。結局名前の後に阿部は入浴を済ませた。





風呂から出て、食事も済ませた。いつもは母親と二人か、阿部と二人で食べる事が多いが、今日は珍しく姉の琴乃も揃って夕食を取る事が出来た。なんでも、明日は朝の五時出勤らしく、早めに就寝したいから隆司の家には行かなかったらしい。

「…ってことは、明日何時に起きるの?」
「三時半には起きないとね…間に合わない」
「うわ、大変ね…私が帰ってきた頃に起こしてあげよっか?」
「それ助かる!んじゃお願いするわ、お母さん」
「任せてー、多分三時過ぎには帰るから」
「ありがとー」

そう言うと、百合に続いて琴乃も食卓の椅子を引いて食器を片付けた。それから百合は仕事へ、琴乃は就寝の準備を終わらせて自分の部屋へと向かう。残された阿部と名前は適当にリビングで食後の時間を過ごしていたが、十時過ぎには二人も部屋へ戻った。

「…隆也、もう寝る?」
「いや、まだもうちょっと起きてる。明日朝練ねぇし」
「ああ、監督が用事あるんだったね」
「シガポも朝は殆ど来れねぇからな…」
「…宿題は?」
「あー、やってなかったなそう言えば。確か、数学と…英語の訳だったか」
「うん、やろ。数学教えて」
「おー」

緩い返事と共に、阿部はエナメルから課題と筆記用具を取り出して部屋の真ん中にある小さめのテーブルに置いた。名前も阿部の横に腰をおろし、数学から広げる。

「わかんねーとこあったら聞け」
「はーい」

それから暫くは沈黙。カリカリとシャープペンシルの芯がノートと擦れる音だけが部屋に響いている。

「……ん、ねぇこれ…答えこれであってる?」
「どれだ」
「問三のB」
「あー…何か違ェぞ」
「やっぱり?ちょ、式見せて」

沈黙を破り、名前が視線を阿部に向けた。もう彼女よりも随分先を解いていた阿部は、言われた問題を探す為にページを捲る。そして名前の答えと自分のとを見比べてみると、数字が微妙に違って首を傾げた。

「えー何でここが40になるの?」
「その前の問題から間違ってんだよ。Aの答えも俺のと違う」
「答えだけ違う?」
「いや、式から」
「嘘っ」

阿部に言われて問題を読み返し、式を見直す。それを何度か繰り返したところで、ようやく自分の間違いに気がついた。単純な引っ掛け問題に見事引っかかっていたようだ。

「はぁーやっぱり苦手」
「俺は古典とか国語とかの方がわけわかんねぇけどな」
「そう?楽しくない?」
「英語とか日本史、世界史ならまだ暗記すりゃどーにかなるけどさ、国語とかってそうはいかねぇだろ」
「典型的な理数系ね」

クスリと笑うと、阿部はそうか?と妙な顔をした。阿部の性格や思考、色々思い返してみればとことん理数系の特徴に当てはまるというのに、自覚症状が薄いというのは全くもって不思議な話だ。まぁ、自分の系統など興味も無いだろうから理解出来ない事では無いが。



結局、その後も何度か間違いを指摘され、英語まで終わらせた頃には十一時半になっていた。英語は数学とは逆に名前が阿部に教える立場にはなったが、そこまで教える事もなく。数学に随分時間をかけてしまったな、と名前は時計を見ながら思った。

「おー、前日に宿題全部終わらせたのって久しぶりだな」
「夏から秋の終わりまでなんだかんだ忙しかったもんね」
「そうだな」
「明日何時に出る?」
「あー…一旦俺ん家寄ってから行きたいから七時くらいだな。お前も一緒に来るか?」
「うん、そうしようかな。朝まで待ち伏せとかされたらやだもんね」
「…え、あいつお前ん家知ってるのか?」

あいつとは、勿論藤岡の事だ。突然突き付けられた恐ろしい予想に、阿部はベッドの上に横たわらせていた体を半分起こした。

「わかんないけど…あの人なら知っててもおかしくないっていうか、知ってそうっていうか」
「……まぁ…確かに」

苦笑しながら肩を竦める名前に、阿部も難しい顔をする。そして深く息を吐きながら、再び頭をベッドに戻した。




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