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#04




駐車場の隅に、二台の自転車を揃えて置く。籠から荷物を取って玄関へ向かう途中、阿部は携帯を取り出して母親に「泊まるから飯いらない」と何とも簡素なメールを送信し、名前の後に続いて玄関へ足を踏み入れた。

「ただいまー」
「おかえりー、ねぇ名前ー?そこに隆也君いるー?」

珍しい事に、百合の声がリビングから聞こえた。いつもであれば玄関まで来るか、いないかであるが故に名前だけではなく阿部も少し不思議に思い、お互いに首を傾げる。

「いるよー」
「あ、良かったー。ねぇ隆也君ちょっと来てー」
「…?はーい」
「先に部屋行ってるね」
「ああ」

短く返事をして、阿部はリビングへ、名前は階段を上って行った。



「何ですか?百合さん」
「…これ、隆也君の?」

リビングに足を踏み入れて百合の姿を探すと、ソファーの近くで洗濯物を畳む姿があった。その手には、阿部が少し前から無いなぁと探していた物で、フェイスタオルとアンダー、そしてTシャツが一枚置かれている。

「あっ、そうです。こっちにあったんすね…俺家で探してて」
「そっか良かったー、見覚え無い物が入ってたからもしかして、とは思ってたんだけど…無意識に洗濯機に入れちゃってたんだろうね」
「すいません…」
「ううん、それは良いんだけど…なくて困ったでしょ」
「いえ、替えが何枚かあるのでとりあえずは大丈夫でした」
「それなら良かった…はい、これ」
「ありがとうございます」

百合から手渡され、Tシャツ等をエナメルに収納する。そして一旦名前の部屋へ行こうとすると、後ろから呼び止められた。

「ごめん隆也君、ついでにこれ…持ってってもらってもいい?」
「名前のですか?いいですよ……ってこれ…何ですか」
「え?下着」

百合から受け取った物は下着以外にも勿論あった。しかし一番上に置いてあったらそりゃあ目につくし、阿部がそれの存在を問うまでに至ったのはその下着のデザインが原因である。

「……下着」

阿部は目の前の物に、瞬きを繰り返しながら固まった。別にもう名前の下着単体ぐらいで興奮したり恥ずかしがったりするような初な男ではない。が、さすがにこれはどうなんだろうか。
ペールターコイズよりは、ターコイズブルーに近い色で、際どい所まで透けそうな位薄い布に、黒のレースがあしらわれている。サイドは紐か、とツッコミを入れてしまいたくなるほど細い布で、またもや黒のレースが装飾されていて、名前には確かに似合いそうなものだ。ブラもセットで、ターコイズブルーを基調とした物に、上から黒のレースが合わせられていた(因みに上記の説明はパンツの方だ)。

「…これ…あいつが自分で買ったんですか?」
「ううん、私が買った。琴乃とお揃いでね」
「琴乃さんと…」
「琴乃のは色が淡紅梅!」
「…?」
「様するに薄いピンクかな。二つとも可愛いでしょー」
「…まぁ…」

そりゃあ隆司さんは大喜びだろうな、と苦笑しながら洗濯物を持ち直す。娘二人の好みや性格を熟知した上で、自分の好みにもあった物を着せて、さらに娘の彼氏にまで喜んで貰えるとあらば買った甲斐はあるというもの。阿部も実際、このデザインは嫌いじゃない。阿部はもう一度自分の洗濯物のお礼を言って、リビングを出た。



「名前ー入るぞー。つーかちょっと開けてくれ」
「はーい」

両手が塞がっていたため、ノックではなく声をかけると、返事の後すぐにドアが開いた。

「悪ィな」
「あ、こっちこそごめん。洗濯物ありがと」
「おー」

てっきり部屋着に着替えているものと思っていたが、目の前の彼女はまだ制服のままだった。その疑問を素直にぶつけると「お風呂入ろうと思って」と名前は早速準備に取り掛かる。今の時刻は夜の七時。夕食前に入浴を済ませるつもりなのだろう。

「あっ、隆也これ見た?」

さて自分も風呂の準備をしようか、とエナメルを床に置いてしゃがんだところで、名前があるものを手にして阿部を呼んだ。

「………」
「可愛いでしょ」
「……さっき見た」

手中にあるのは例の下着。ご丁寧にパンツとブラ、どちらも持っている。

「お姉ちゃんとお揃いなんだよ」
「ああ、百合さんが言ってた」
「なーんだ」

阿部の反応を見、名前は部屋着と共にその下着を揃えてベッドの上に置いた。阿部も、エナメルとお泊りセットの中から適当に着替えを取り出して、立ち上がる。

「お前がそんなの着てるの見たことねぇぞ」
「だって買ってもらったばっかりだもん」
「ったく…それで誰か誘惑しようとでも?」
「あははっ、隆也を?」
「俺を誘惑したいのか?」
「どうだろ…思いつきもしなかったけど」
「威力はあると思うがな」
「そうなんだー、私下着のデザインとか自分の好みで買ったりするから人からどう見られるのかとか考えた事なかった…」
「まぁ、確かに普段は見えねぇが…俺はこうして見てるわけだしな」
「というか家族と隆也くらいにしか見せないよ…」
「あたりめーだ」
「ならいいじゃない」
「まぁな…」

なんだろう、この喜んでいいのか悪いのかわからない状況は。いや、自分にしか見せないと言っているんだからここは喜んでいいはずだ。なのに何だろうこのモヤっと感。



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