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#01





「はぁ?ストーカー?」


高一の冬。シーズンオフ。名前達西浦野球部は、少しばかりの心の余裕と共に、日々学校と部活動に打ち込んでいた。そんなある日の昼休みに、名前がふと、阿部に相談を持ちかけた。

「違う。そこまで言ってないよ」

阿部のなんとも穏やかではない発言に、周りも何だ何だと視線を向ける。それから逃れるように、名前は身を屈め、先程よりも更に小声で言葉を紡いだ。

「だって付きまとわれてんだろ?」
「…や、付きまとわれてるっていうか…しつこいっていうか」
「相手は誰なんだ?」
「三年生の藤岡って男の先輩」
「…知らねぇ」
「私も知らない」
「ことの発端は?」
「えっとね……」
「やっほー阿部。ストーカーがどうしたの?」
「おい水谷やめろよ」

そもそもの原因を話そうとした途端、名前達の元へやって来た水谷と花井。教室に居る生徒の大半が此方へ視線を向けるくらいだ、二人が気になってやって来るのは当然だと思う。しかしそこまで大袈裟に話す事でもないのに、と名前は一瞬躊躇ったが、結局「ここまできたら教えろ」と三人に詰め寄られてしまい、仕方なく名前は口を開いた。

「廊下ですれ違った時に話しかけられたのがついこの間でね、その時にちょっと人通りの少ない所に連れて行かれて、告白っぽいことされたの」
「っぽいって何だっぽいって」
「いや…何て言うの?いきなり俺の彼女になってよ、って言われたから実感わかなくて」
「ええー、そんな強引な!」
「でしょ?」

水谷が同意してくれて、名前も少しホッとした。阿部も難しそうな顔をしている辺り、その藤岡という先輩にはいい印象を受けなかっただろう。

「それでね、ちゃんと断ったわけ。理由も話したし」
「何て言ったんだ?」
「確か…今付き合ってる人がいるし、先輩の事を何も知らないからいきなり付き合うわけにはいかないって」
「ばっか、それじゃ相手も勘違いすんだろーが」
「え?」
「じゃあ自分の事を知ってくれたら付き合ってくれるんだ、って思うに決まってんだろ」
「ああうん…言われた」
「ほらな」

言わんこっちゃない、と阿部は溜息をつく。彼女のこういう事にはちょっと疎い所が、たまに心配だ。阿部自身も別にこういう話が得意というわけではないが、名前よりはマシだと思っている。

「で、でもね。その後もちゃんと言ったんだよ?今隆也と別れるつもりは無いし、別れたとしても先輩と付き合う気はないって」
「でも今現在諦めてねーわけだろ、その先輩は」
「うん…」
「ねぇ、名字。その先輩って何て人なの?」

水谷が興味本位で尋ねる。

「三年の藤岡って先輩。水谷君知ってる?」
「あっ、なんか聞いたことあるよその先輩」
「どんな奴なんだ?」

花井も身を寄せて興味を示した。阿部も水谷にしっかり目線を向ける。

「んーとね、そこそこイケメンで有名だよ。運動神経いいし、ピアノとか弾けるって。成績は…あんまり良くないらしいけど。それでも結構女子には人気あるみたい。でも性格に若干問題アリらしいけど…」
「問題って…?」
「…自分の顔が一番好きみたい。要するにナルシストってやつだね。鏡とか常に持ち歩いてるって」
「ただのバカじゃねぇか」
「こら隆也。…でも、確かにそんな感じだったかも…この俺に相応しいのは君だって言われた」
「すげー台詞…」

花井の引き笑いに、名前も「ねー」と同意する。漫画等でしか聞かないような台詞を、まさか自分が言われることになろうとは。名前自身、微塵も考えつかなかった出来事に驚きを隠せない。

「で?今は何されてんの?」
「何かと行事ごとに私を誘ってきたり、休み時間の度に廊下で待ち伏せされてたり」
「だからお前最近休み時間に席立たなかったんだな」
「うん。そして昨日はね、どこから私のメルアド入手したのかわかんないけど、メールが来たの」
「はぁ?何て?」
「藤岡です、登録してねーって」
「ええっ、それちょっと怖くない!?」
「うーん…悪気はないんだろうけどね」
「悪気があろーがなかろーが問題はそこじゃねぇだろ」
「まぁね…」

阿部の言葉に、名前は肩を竦めた。


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