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#10




今は休み時間という時間に限りがある状況だ。名前はそれを踏まえてこれまでの経緯を掻い摘んで説明した。

「簡単に説明すると、来週頭に引っ越すらしいの、藤岡先輩。だからもう何もないよ」
「そうか…」
「納得してんじゃねーよ花井。明らかに掻い摘み過ぎだろ。泉達にも軽く説明してあっから、順序立てて話せよ名前。時間内に収まるくらいで」
「難しい注文よそれ…」
「頑張れ」
「えー…」

名前はチラリと時計を確認し、藤岡に呼び出されたところから始めた。家庭の事情とスポーツ推薦での大学入試に合わせて引っ越すことになったということ、それから最後の思い出に一緒に出掛けるのを諦める代わりに何か自分の物が欲しいと言われた事を説明した。

「聞けば聞くほど気持ち悪ィな」
「もうちょいまともな奴だと思ってたぜ…」
「泉君も藤岡先輩の事知ってたの?」
「そりゃ多少は有名だからな…スポーツ出来てそこそこイケメンでちょいナルシストって噂だけは出回ってたから。まぁ、想像してた奴とは180度違ったけど」
「うん…ちょっと…変わってる人だったからね」

今までの事を考えれば「ちょっと」では収まらない気もするが。名前は肩を竦めると、話を再開した。

「…それでね、私物って言われてもそんなすぐに出せるわけもないから適当にポケットの中とか漁って、それで偶然入ってたシャーペンあげちゃった」
「よかったのか?」
「うん、一本くらいならね。どうせ部活用に三本セットとかで買ったやつだし」
「んな適当な物やったのかよ」
「あいつにはそんくらいで十分だろ」
「まぁな」

名前のあげた物のあまりの値打ちの低さに苦笑する泉であったが、阿部の言う事は尤もである為、泉も同意する。

「…何にせよ、一件落着って事か?一応」
「だよねー取り敢えずは」

花井と栄口がハッキリとは言い難い言い方で今回の事件の落ち着きを示した。確かに後味の悪い決着のつき方ではあったが、終わりは終わりだ。名前はやっと「藤岡地獄」から解放される事を改めて実感し、胸を撫で下ろした。

「…良かったな」
「うん…」

微笑む阿部に、名前も笑みを返す。それに続くように泉、花井、栄口もそれぞれ彼女を慰撫したところで、タイミングよく休み時間の終了を告げる鐘が鳴った。








「…ねぇ、私まだ聞いてないよ」
「あ?」


その日の夜。名字宅。
名前は布団の中で阿部にふと思い出した事を尋ねた。

「昨日の夜、理由聞いたら後で話すって言ってキスして誤魔化したじゃない」
「…ああ」
「ね、まだ教えてくれないの?」
「もういいじゃねぇか終わった事蒸し返すなよ」
「やだ。気になる」
「…お前ちょっと面白がってんだろ」
「ふふ、ちょっと…だけだよ」

楽しそうに笑う名前を見て、阿部はそんな彼女にくるりと背を向けた。益々珍しい。しかしまたこのまま黙りを決め込まれるかなと名前が半ば諦めかけていると、阿部はポツリポツリと話し始めた。

「…あいつを初めて見た時」
「正門で?」
「ああ、そん時な…思ってたより顔が良くて……焦ったんだよ」
「…えっ…」

思いも寄らない返答に、名前は一瞬言葉に詰まった。しかし申し訳なさそうな顔と合わせて若干恥ずかしそうな表情をしている阿部を見て、名前はふわりと笑う。

「…ふふ、私は顔だけでは選ばないよ」
「俺だってお前がちゃんと内面も見るやつだって事は理解してるつもりだったんだけどな…」
「隆也は?」
「俺も顔だけで選んだりしねぇよ」
「でしょう?じゃないと私を選ぶわけ無いもんねー。とは言っても、私の性格もいいってわけじゃないけど」
「………」
「それに、隆也だったらもっと理性的に選びそうよね」
「なんじゃそりゃ」

くつくつと笑いながら、阿部は体の向きを戻した。そして名前を腕の中へ閉じ込めると、柔らかい髪をそっと指で梳く。

「…隆也」
「ん、」
「私隆也のタレ目なのに目つき悪いところとかも好きよ」
「何だいきなり。しかもどーゆー意味だそりゃ」
「ははっ…ちょっと思っただけ」

そう言って名前は軽くキスをした。だがしかしすぐに離した唇は再び阿部によって塞がれ、今度は深い口付けとなる。

「…はっ、んっ…んぅ…」

舌が絡む。お互いの唾液を交換するような深い交わりに、名前は一瞬で心の余裕を奪われてしまった。ただひたすらに、阿部からの行為に応えるしかない。

「…ん、はっ…んっ…」

そろそろ離れるか、と思えば逆に更に抱き寄せられる。

「…たか…っん…ぁ…ちょっ」

キスの合間に不意に背中に感じた違和感。阿部の手が、服の中に侵入し始めているのだ。慌てて離れようとしたが逃がしてくれるわけもなく。ブラをしていない背中をゆるりと撫でられ、名前は小さく身体が跳ねた。

「…やっ…っん…」

背中の違和感と同時に唇はようやく離れたのだが、代わりに首元に顔を埋められた。舌でチロチロと舐められて、くすぐったい。

「…たか、んんっ…ん、」
「名前…」

熱を含んだ声に、身体が一瞬ぞくっと震えた。しかしここで流されるわけにはいかないと、もう一度彼の名を呼び肩を押す。するとそこでようやく我に返ったのか、徐に身体を離す阿部。

「…悪い、今日は抱くつもり全くなかったんだけど」
「びっくりした…」
「ごめん、もうしねぇ…これ以上やるといよいよ抑え効かなくなる」

阿部は深く息を吐くと、再び名前を抱き寄せた。

「あーもう、やべぇから寝る。もう寝る」
「大丈夫…?」
「寝ちまったら何の問題もねぇ。それまで我慢する」
「…私出ようか?」
「いい、このままここに居てくれ」
「わかった…おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

今日名前を抱くということは、自分の不安やらちょっとした嫉妬やらの気持ちをただ彼女にぶつけるようなものだ。そんな状態では絶対にやりたくない、という名前を大事にしたいその思いを胸に、阿部は名前に続いてゆっくりと目を閉じた。




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