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#09




名前が藤岡に呼ばれて教室を去ってから、阿部は少なからず気にはなっていた。わざわざ覗きに行く程ではなかったが、せめて自分の席から見える位置に居てくれれば助かるのだがという程度にはやはり心配である。しかしながらそんな願いも虚しく、名前達はちょうどドアの後ろに隠れる形となり、無論声も聞こえない為事後報告で妥協せざるを得なくなってしまった。

「阿部、行かなくていーのか」
「追いかけてってまで話盗み聞きするつもりはねぇよ」
「…早く名字戻ってくるといいけどな」
「…ああ」

花井の心配そうな顔を一瞥して短く返事をした時に、教室の名前がいない方のドアからひょっこりと意外な人物が二人、顔を出した。

「よぉ」
「泉、と栄口?どうしたんだえらく珍しい組み合わせだな」

辺りをキョロキョロと見渡しながら歩いて入ってきた二人に、花井が目を丸くした。

「名字に借りてた分析ノート、返しにきたんだよ」
「俺は偶々偶然泉と会ったから、ついて来ただけ」
「そーそー、んで?名字いる?いねーなら篠岡にでもいいんだけど」
「篠岡はさっきシガポに呼ばれて職員室行ったぞ。名字は…まぁ…お取り込み中だ」
「取り込み…?なんだ、お前ら遂に別れるのか」
「ちげーよ」

少し楽しそうに茶化す泉に阿部が頬杖を付いて否定した。しかし若干面白くなさそうな顔をしているところを見て大方の予想は付いたのか、泉は「ああ」と控え目に例の人物の名を口にした。

「…藤岡っつー先輩だっけ」
「知ってんのか?」
「いや、水谷から聞いた」

正しくは名前と阿部の様子がいつもと少し違った事が気になって「聞き出した」のだが。面白いので黙っておくことにする。

「あんのクソレ……」
「水谷の奴…名字は大事にしたくないっつってたぞって俺言ったのに」
「ま、別に俺はベラベラ喋るつもりはねぇよ」
「何なに?何の話?」

その場で唯一話がわからない栄口が、ようやく口を挟んだ。先程まで聞きたそうにうずうずしていたのが見受けられたのだが、愈々我慢出来なくなったのだろう。しかしだからと言って誰かが教えてくれるわけでもなく。一瞬その場に沈黙が流れた。

「………」
「…あ、やっぱ聞いちゃまずかった?」
「……いや、まずいってこたァねーけど…なんつーか、名前に今つきまとってる奴がいんだよ。藤岡っつー三年」
「つきまと…っ!?それってやばくない?大丈夫なの?」
「今のところ軽い嫌がらせ程度だよ。悪質なわけでもねぇし、その藤岡は面倒な事におそらくわざとじゃねぇ。飽く迄も名前への気持ちからくるモンなんだろうよ」
「へぇ…名字も大変だな…」
「今までにもこういうことあったんじゃねーの?」
「今回のケースみてーなのは無かったな。わりかし告る前に諦めて他の彼女作る奴とか、少し気になる程度の奴ばっかりだったよ。つっても、そんな大人数じゃねぇけど。当たり前だが一部の話だ」

阿部がそう言って肩を竦めると、泉と栄口は「そうだったのか」と口を閉ざして空いている名前の席を見つめた。その時だ。

「隆也…!」

名前が慌てて駆け込んで来たかと思えば、珍しい事にそのままの勢いで座っている阿部に抱き付いた。

「うお…っ!?」
「お、おい…」
「名字にしては珍しいな」
「どうしたんだろうねー名字」

いきなりの事に若干焦る阿部と、心配そうに辺りを警戒する花井。幸い他のクラスメートにはまだ気付かれていない。そんな様子を少々驚いた様子で見物する泉と栄口だったが、名前はそれに気付く事なく阿部の首元に顔を埋めていた。

「…名前」

先に我に返った阿部が、小さく名を呼ぶ。するとようやく現状を理解したのか、名前はパッ、と彼から離れた。

「…あ……ごめん、感極まったっていうか…一瞬周りが見えなくなってた」
「俺は別に構わねーけど」
「泉君も栄口も花井君もごめん、驚いたよね…」
「あ、いや別に…」
「俺も別に構わねーぜ」
「俺も俺もー、珍しいもの見れて逆に良かったよー」
「あああ…ごめんなさい…!恥ずかしい…」

皆は気にしないと言うが、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。普段ならこんな事はしないのに、と名前は阿部の足元に蹲ってしまった。見苦しいところを見せてしまったと申し訳ない気持ちでいっぱいになり、両手で顔を覆う。

「名前、んな気にする程の事はしてねーんだから顔上げろって」
「………うん」
「んで?藤岡…何だって?」
「…ああ、あのね」

顔は上げたがしゃがんだまま。名前はポツリポツリと先程の事を話し始めた。





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