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それはアクシデントから始まった

目が覚めたら、何故か見知らぬ世界にいた。

「………?」

知らない天井、ベッド、壁、扉。そして、隣の温もり。

「…温もり?……え、名前…?」

なんで、俺の横に名前が寝てるんだ。どういうことだ。一体何が起こっている?

「名前、おい名前起きろ」
「…んー…」
「起きろ、そしてこの状況を説明してくれ」
「…なにが……?」
「いいから、なんで俺はここにいるんだ?つーかここどこだ」

まだはっきりと覚醒はしていないのか、ぼんやりと俺を見る名前。寝ぼけ眼が可愛い。
じゃなくて。

「どこって…自分の部屋でしょ…」
「え、俺の部屋こんなんじゃなかったぞ。それに、お前がいることも理解できない」
「昨日泊まった…からいるんだよ…」
「名前泊まりに来たっけ?」
「来たよー…ふふ、もしかして寝ぼけてるの?」

そう言って俺の頬をぺちぺちと優しく叩いた。ヤバい、可愛い。こんなことしてくれるんだったら別にこのままでもいいかなー、なんてつい思ってしまう位には威力がある。

「…なんか、よくわかんねーけど…とりあえず起きよう」
「そうだね、今日部活ないから行きたい所あったんでしょ?隆也」
「そうそう部活ねーから……え?」
「私まだ聞いてなかったけど、どこに行くの?」
「いや、ちょっと待て」
「あ、聞かない方が良かった?」
「いやそうじゃなくてお前…今何て言った?」

一瞬スルーしかけたが、確実に名前は不思議な単語を口にした。「隆也」と。あいつの前には俺がいる。タカヤじゃない。それなら、名前は一体誰と喋っているんだ。

「…私何か変なこと言った?」
「タカヤって」
「?」
「タカヤって…誰の事だ?」
「え、何言ってるの?隆也は隆也でしょう」
「はぁ?だからワケわかんねーって……えっ!?」

机の横にあるテレビの真っ暗な画面に、見知った顔が映った。阿部隆也だ。画面が暗いのではっきりとはわからないが、明らかに俺の顔じゃない。俺は慌てて名前から手鏡を借り、確認した。

「…どうなってんだ」

やっぱり阿部隆也だった。
それなら、俺は…榛名元希はどこへ行った?






目が覚めると、見知らぬ世界だった。
部屋の構造から全く違うし、見覚えがない。それに隣にいるはずの名前がいない。
夢か。そう思うしかない。俺は再び眠りにつこうと目を閉じた…いや、閉じようとした。途端に、勢いよくドアが開き、それが叶わなかった。

「元希ー!」

いきなり現れた女の人。なんとなく見たことあるようなないような、そんな人が俺を見て「元希」と呼んだ。「元希」という名前は俺が知る限りでは一人しかいない。榛名元希だ。俺は榛名の姉と思われる人物が何か話しかけているのも気にせず、洗面台へ急いだ。鏡で確認し、現状を把握する。今俺は、榛名元希になっている。おそらく夢だろう。だからこそ、今俺の中に入っているであろう人物も、容易に想像ができた。俺と榛名元希が入れ替わっているんだ。

「とにかく一旦俺ん家行かねーと」

部屋に戻り、まだ榛名の部屋にいた姉らしき人に「ちょっと出てくる」とだけ告げ、適当に服を引っ張り出して着替えを済ませた。そして後ろで何かブツブツ言っている姉(らしき人)を再びスルーし、家を出る。どうやら買い物に付き合って欲しかったらしいが、生憎今はそれどころじゃない。名前の身が危険だ。





どうせ夢だ。そう思うとなんとなく名前の今の状況を説明するのは惜しい気がした。このままバレるまでは阿部隆也を演じてみよう。そういう結論にいたって、俺は名前には何も言わなかった。「夢」なんだと思うだけで、気持ちは断然軽くなる。今はこの夢が覚めるまで、現状を楽しむべきなんだ。

「名前」
「何?」
「今日は出かけんの、やっぱやめにするわ」
「そうなの?」
「ああ。気が変わった」
「ふぅん…じゃあ、宿題でもする?」
「えっ…」

そこはこう…もっといちゃいちゃ的な物じゃないのか?宿題とか…そんなの俺解ける気がしない。俺のが学年いっこ上だけど。

「数学。結構課題出てたから持ってきてたの。教えてもらおうと思って」
「お、おー…そうか…」
「…どうかした?」
「いや、課題はわかったからとりあえず俺の横に座って」
「いいけど…なんかちょっと今日の隆也変だね。別人みたい」
「えっ…!?」

どこでバレた?俺そんなにおかしなこと言っただろうか。もしくは下心丸わかりだったとか。急にソワソワし始めた俺を不思議そうに見る名前の視線に耐えきれなくなり、慌てて目を逸らした。

「隆也…?」

俺の手をそっと握り、視線を合わせようとしてきた。どうしよう。何というか、過ち犯しそうだ。いや、犯さないけど。でももしかしたら、これはチャンスなんじゃないだろうか。どうせ夢なんだ、やれることはやっておきたい。せめて、キスくらいは…やってみたい。

「名前」
「…?」
「…あー…ごめん、ホント…ごめん」
「えっ、ちょ…何…を…」

握られていた手を握り返し、それを引っ張って俺の方へ手繰り寄せた。顔を近づけ、唇を寄せる。うわ、すげードキドキする。

「あ、の…ちょっと…っ」

でも、肝心な名前が困惑していた。多分「タカヤじゃない」と、心のどこかでブレーキがかかっているんだろう。

「嫌か?」
「嫌じゃ、なくて…今日は…ちょっと」
「タカヤじゃないみたい…ってか」
「うん…」
「そっか」

俺は諦めて、名前から離れようとした。その時。

「元希さん!」

俺が入ってきた。中身はおそらくタカヤだろう。

「え、榛名さん…?」
「名前、何もされてねーか」
「は、はい何も…でもどうして榛名さんが…」
「…はぁ。いや、俺は榛名じゃなくて…」
「おい、タカヤ!俺の姿でいちゃつくな!羨ましいしなんかムズムズする!」
「いちゃついてませんし、ムズムズとか俺の顔で言わないでください」
「なんだと!」
「つーか、名前に話してないんですか?」
「あー…うん、騙せるとこまで騙してみよーかなって」
「…それであわよくば襲ってみようかと」
「そこまで悪質なこと考えてねーよ!つかキスしようとしたら拒否られたし!」
「…へぇ、キスしようとしたんですか」

あ、しまった。俺は慌てて口を押さえたがもう遅い。とりあえず俺はその場に小さくなって正座した。反省の色だけでも見せないと益々怒りそうだから。

「…まぁ、未遂なんでしょうしそこまで怒りませんけど。それより名前ですよ。元希さんが説明してねーから放心状態ですよ?」
「すんません」
「名前、大丈夫か?ついて来れてるか」
「あの、すみません何がなんだか…いや…え?榛名さん…が隆也…?え、え?」
「おお、そうだ。目ェ覚めた時には俺達入れ替わってたんだよ。だからお前もなんとなく、あいつのこと違うって思ったんだろ」

そう言って俺の方を指差す隆也。あいつ呼ばわりは多少気に入らないが、ここは口を挟む場面じゃないことぐらいは俺でもわかる。

「それは…そうですけど…でも…」
「そう難しく考えるな。どうせ夢だ」
「夢…なんですか?」
「夢じゃねーとこんなこと起こらねぇだろ。そして俺は阿部隆也だ。見た目が榛名元希でも隆也だ。だから敬語はやめろ」
「は…うん」
「よし、つーことなんで元希さん、もう帰っていいですよ」
「はぁ!?帰るってどこにだよ!」
「自分の家にですよ」
「今は俺が阿部隆也なんだぞ!お前が俺ん家に帰るべきだろうが!」
「じゃあ名前は連れて行きますよ」
「いやいや…今のお前が名前連れて帰ったら不審がられるぞ」
「…はぁ……じゃあ俺もここに泊まります」
「まぁ、それが無難だろうな」

と、言うことで初めての面子でお泊まり会となった。そこで一番問題なのは、誰が名前と寝るかということだが、絵図ら的には俺と寝るのがいいと思う。だからそう言ったのにタカヤは認めなかった。当たり前といえば当たり前だが。だからと言ってタカヤが名前と寝る訳にもいかない。絵図ら的にもマズいし、名前も妙な気分だろう。それなら三人で川の字で寝るか、と俺が提案したら今度は名前に拒否された。

「今日は私帰りますので二人で寝てください」
「はぁ!?じゃあ俺も帰るわ元希さんの家」
「隆也は榛名さんと一緒にいた方がいいかもよ?榛名さんの行動も監視できるし」
「監視…ああ、そうか」
「ね?じゃ、お休みなさい」

そう言ってタカヤを言いくるめ、名前は部屋を出て行った。

「…とりあえず、俺床に布団敷いて寝ますんで、俺が泊まること家族に伝えてください」
「あ、そうか。わかった」
「妙なこと言わなくていいんで、普通にしてくださいよ」
「わかってるっつーの!」

そんなこんなで、初のお泊まり会は幕を閉じた。朝にはちゃんと元通りになっていたから安心だ。でも、朝目が覚めた時にタカヤの部屋で寝ていたので、やっぱりあれは夢じゃなかったのか…とこれだけが疑問に残った。


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