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愛の結晶



※連載の二人のもしも話です。連載の方で必ずしも将来こうなるとは限りませんのでご注意ください。(子供の名前が今回のみ固定です。今後連載の方で未来の二人の子供について出てくるようであれば、連載のページは名前変換できるようにしようと思います)












高校を卒業して、大学まで行って。仕事をしながら交際も続けて。私達はなんやかんやで結婚して長男が生まれた。それまで苦労した事も多々あったけど、子供が生まれたその瞬間、今まであった辛かった出来事等がどうでもよく思えるくらい嬉しかった。
生まれたばかりはやっぱり、初めての子供ということもあって凄く大変だった。隆也ともちょっとした喧嘩をしたり、心身共に疲れ果ててもうどうしていいかわからなくなったり。でも周りの人達の協力もあって、今この時までなんとかやって来られたのだと思う。
そんな長男もつい先日二歳を迎えた。覚束ない足取りで歩き始めたし、言葉も少しずつ話せるようになってきた。可愛い時期もあと少しなんだろうなぁ…としみじみ思い始めたある日、家族揃って買い物に出かける事になった。

「…終わったか?」
「まだ、ちょっと待って!」
「先にりゅう連れて車で待ってるぞ」
「わかったすぐ行くー」

自分の準備も時間がかかるが、何より息子の準備に手間取る。まだ二歳だから当然と言えば当然なのだが。洋服の替えやガーゼ、等々。離乳食だった頃に比べれば楽になった方だが、油断は禁物だった。
因みにりゅうとは勿論息子のこと。本名阿部隆羽(りゅう)。りゅうは、とかたかばね君、とかりゅうう…でもなく「りゅう」。パッと聞いた感じ「アベニュー」に聞こえなくはないけど、別にそんなニュアンスが目的で付けた訳じゃない。長男の第一子ということもあるし、何故か私に近い男の人達はみんな「隆」という字が入っている。隆也はお父さんからもらい受けたものだろうけど。そういうこともあって、自分の長男にも「隆」という字を入れてあげたかった。後は総画数とか響きとか。だからアベニューが由来ではない。阿部隆羽君ですよろしく。


「お待たせっ」
「うし、行くぞ」

ようやく準備が終わって車に乗り込むと、チャイルドシートに大人しく座っていた隆羽がニコッと笑った。息急ききって乗り込んだのが面白かったらしい。

「忘れ物ない?」
「多分ねぇ。お前も大丈夫なのか?」
「多分」
「お互い適当だな…隆羽はねーか」
「ぱんつー」
「なんだお前パンツ履いてねぇのか」
「違うでしょ、覚えたての言葉適当に言っただけじゃない。誰よこんな言葉教えたの」
「俺」
「別の言葉にしてよ!」

子供とは、本当に覚えが早い。でも頭の中で何を考えているのかわからないくらい、予測不能の言動が日常茶飯事たがら、毎日がお互いに新鮮だ。


そうして動き出した車。そんなに遠出ではなかったけど、案の定途中で大人しく座る事に飽きてきた隆羽が、ベルトで固定されているにも関わらずうんしょうんしょと抜け出そうとしている。

「ダメよー」

一応制止させては見るも、言うことを素直に聞くような歳じゃない。「警察に捕まるわよ」なんていう脅しも意味がわからないんじゃ効果がないし。結局隆羽は私の膝の上、というポジションをキープしてしまった。

「ぶーぶー」
「うん、車ね。これは、隆羽のハンドル」

お膝に座っている間も退屈しないように、子供用に買ったおもちゃの車のハンドルを目の前に置いた。本来、チャイルドシートに括り付けて固定するタイプだったのだが、思ったより隆羽がそこに座らなかったので今は取り外して使っている。

「着いたぞ」
「駐車場空いてる?」
「出入り口付近はもうダメそうだな。ちょっと遠くなら空いてる」
「まぁしょうがないか、最悪抱っこするよ」

気づけばもうお店の駐車場に入っていた。つい最近オープンしたばっかりのお店なだけあって、流石に人が多い。歩き始めて日が浅い息子がいる親としては、店の出入り口から近い所に止めてあげたかったのだが、そう上手くはいかないもので。結局少し遠目の所に止めて、隆也が隆羽を抱っこしてお店に入った。


お店に入ってすぐの所に、とてつもなく大きな恐竜のオブジェ…とでも言うのかだろうか、それが置いてあるのがこの店の特徴だ。その恐竜(おそらくティラノサウルス)をお店のメインキャラクターにしている訳だから、納得もいくにはいくが、天井すれすれまで大きくする事もなかったんじゃないかなぁ、とは思う。
私はその恐竜を一瞥すると、目的の家具を買う為にそのコーナーへ向かった。のだが。いつまで経ってもやって来ない夫と息子。流石に不思議に思って踵を返したら、隆也と隆羽が同じ表情でその恐竜を見上げていた。

「隆也ー?りゅー?」
「…すげーなこれ」
「うん、確かに大きいけど…行こ?時間なくなっちゃうよ」
「そうだな。行くぞ、隆羽」

ようやく恐竜から視線を外してくれた隆也は、未だに恐竜を見上げ続ける隆羽の手を握ろうとした。すると隆羽が徐に胸元のポケット(今日の隆羽の格好はプーさんのイラストが胸元に付いていて、その下にポケットが一つだけ付いているつなぎだ)から何かを取り出した。そして一言。

「………おーきいねぇ…」

そう言ってポケットから取り出した物と見比べる隆羽。その小さな手のひらに乗っていたのは、何とお気に入りの小さな恐竜のおもちゃだった。二歳児の手のひらに収まるくらいの大きさだ。

「やだ…隆羽ったらそれいつぽっけに入れたの?」

いつの間にかポケットに忍ばせていたおもちゃと、目の前に広がる大きな恐竜とを珍しげに見比べるその姿がつい可愛くて、私は頬を弛ませた。仕方がないからその可愛さに免じてもう少し恐竜と比べっこさせてあげよう、とそう思った瞬間、急に体の左側に重みを感じて顔を上げた。

「…隆也?」
「……やべぇ、今の見たか名前」
「おーきいねぇ…ってやつ?」
「あー、もうやべぇ、あいつ天使じゃね?何かすげー勢いで射抜かれたわ」
「…ふふ、親バカね」
「可愛かっただろ?」
「そりゃもちろん。まさかぽっけから出てくるなんて…ふふ、可愛い」

先程の一部始終をビデオに収めておきたかったほどには可愛かった。隆也も隆也で、私にもたれ掛かってしまう程には射抜かれてしまったようだし、二人揃って親バカだと言われてももうしょうがない。

「あ、みて、しゅごい…おっきー」
「ねー、隆羽が持ってるのより凄く大きいね」

私に気付いたのか、隆羽はてってっ、と歩いてきて、私達にも自分が持っているミニ恐竜とオブジェとを見比べるように、そのおもちゃを差し出してきた。隆也はしゃがんでそれを手に取り、私は隆羽を抱きかかえ、もう一度大きい恐竜を見つめた。

なんとなく、さっき一瞥した時よりその恐竜が輝いて見えた気がする。



愛の結晶

(とはよく言ったもので。可愛がらずにはいられないわ)



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