家族



「ナルトオオオオオオオオオオ! 早く起きなさい、遅刻よっ」
 わたしたちの朝は、だいたいいっつもこんな感じです。
 わたしとサスケ君は、いつも朝早いんだけど……。ナルトとカカシさんは、いつも寝坊します。なので、たたき起こす。
 サスケ君はカカシさんを、わたしはナルトを――いつの間にか、それが当たり前になっていた。

 わたしたちが四人で暮らし始めたのは、小学校三年生の春。

    ***

『やだぁっ!』
 わたしたちは、身寄りがいなくて孤児院でずっと一緒に暮らしていた。これからもずっとそうだと思っていたのに――。
 ある日、ナルトとサスケ君を引き取ってくれるという人が現れて、わたしだけ取り残されることになった。

 一人になるのも怖かったけど、二人と一緒じゃない毎日を思うと、不安になったんだと思う。ずっと、二人の服を掴んで泣き叫んでいた。
『だめよ、サクラちゃん……。ほら、早く話して』
『いやあああああ! 二人がいないと、イヤァ……』
 先生の困った顔は、涙で滲んでてよく覚えてないけど……。二人の嬉しそうな、困ったような微妙な顔は明確に覚えている。

 そこに、二人を引き取る人がやってきて、
『……ん? この子は?』
 先生が事情を話すと、その人は数秒悩んでから、笑った。
『サクラ、っていうんだね』
 わたしと視線を合わせるために屈んだその人を、わたしは見ないようにした。
 その人は、続ける。
『君が、女の子一人でもいいって言うんだったら、俺が引き取るよ。どうだい?』
『え……』
 サスケ君が、驚いて声を出した。わたしの涙を止まっていた。ナルトは、固まっていた。

 また三人一緒。一緒に暮らせる……? 嬉しくて嬉しくて、声を出せずにいた。わたしは、無言で頷いた。
『まっ、これで解決でしょう』
 わたしたちを引き取ってくれた人――それが、カカシさん。
 カカシさんは、ひとり暮らしの会社員だという。自分の過去のことは何も話さないけれど、とても優しい人。

 ちなみに、わたしたちが自立するまで結婚する気はないらしい……。そのころになったら、彼女だって作れない年齢になっちゃうじゃないかって言ったら、『サクラをお嫁さんにするからだいじょーぶ』と言われました。その後、わたしが殴る前に、サスケ君とナルトがぶん殴りましたが。


    ***


「げっっっ! もうこんな時間んんん!?」
 起きたナルトは、あまりの絶望に頭を抱えた。まったくもう……。明日こそは自分で起きるからって言ってたのに。

「もう! わたしとサスケ君、先に行ってるから」
「えええええええええ! ひどいってばよ〜!」
 ベーッと舌を出し、ナルトの部屋から出る。階段を急ぎ足で下りると、サスケ君は既に玄関に立っている。
「早くしろ、サクラ」
 ……ナルトより寝坊助のカカシさんを、こんな短時間で起こすなんて……。一体、どうやっているのかしら。

「ごめん! 今日もナルトが起きなくって……」
「ったく、あのウスラトンカチめ」
 悪態ついてるサスケ君だけど、なんだかんだ言って仲いいのよね。あの二人。
 なんとなく、羨ましい……。
 中学入ってから、なんとなく男女の壁を感じている。きっと、二人は余り感じていないんだと思う。

 だって、時々――わたしがお風呂に入ってるときに、普通に入ろうとするんだもん(特にナルト)。日曜には、同じ部屋で寝ようって押しかけてくるし(特にナルト)。まあ、兄弟みたいに育ってるから、仕方がないのかもしれないけど。

 鞄を持ち、鏡に映るわたしに向かって、微笑む。リビングを出ながら、カカシさんに「いってきまーす」と一言。「気をつけてねー」と気の抜けた返事が帰ってくる。
 靴を履き、つま先でトントン床をたたく。ふ、と顔を上げると、サスケ君の顔。反射的に、顔が赤くなってしまう。
「行くぞ」
 無愛想にわたしの手から鞄を奪い取り、ドアを開ける。
 こういうサスケ君の優しさが、わたしは大好き。小学校低学年の間は結構スキスキ言ってきたけど、さすがに中学になってからは自重してます。
 とはいえ、時々しつこくしちゃうんだけど。




 そういえば、久々かもしれない……。
 サスケ君と二人っきりで、歩くだなんて。最近は、ナルトのせいで、三人揃って全力ダッシュ!ってことがほとんどだし……。
 横目でサスケ君を見る。相変わらず、何を考えてるかわかんないよ。

 パチッ。

 目があった。
 サスケ君は一瞬だけ目をそらすと、またすぐに視線を戻す。ちょ、やだ……緊張する!
「サ……」
 サスケ君が口を開いたところで、遠くのほうから大きな声が聞こえた。

「サーーーーーークラちゃーーーーん!」

「ナ、ナルトォッ!?」
 振り返ると、ナルトが息を切らしながら走っている。呆れたもんだわぁ、こんな短い時間で仕度して、追いつくなんて……。
 さすがはバカね。思わず、笑ってしまう。

「げっ、サスケに鞄とられたぁ!」
「ふんっ。お前が遅いから、今日は俺が持ってやったんだ」
 サスケ君が、わたしの鞄をナルトに投げる。……ちょっと、悲しいかも。
「そういえば、サスケ君……。さっきの続きは?」
 わたしと目を合わせず、サスケ君は答える。
「なんでも、ない」
「……そっか」
 何でだろう、すごく悲しい目……。ねぇ、サスケ君。何でそんな顔するの?














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