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 それから数日が経ち、その間にも任務が何度かあった。任務が終わるたび、サクラは色々な男の誘いに乗ってしまう。
 サスケがそれを咎めることなどできないし、サクラがサスケを誘うことは、このままではないだろう。
 任務中でもぎこちない関係の二人を見かねたカカシは、サスケにラーメンを奢ると言ってきた。幸いなのか、不幸いなのか――ナルトはサクラと遊びに行っており、邪魔者はいない。
 サスケは、二つ返事でカカシに続く。



 一楽の椅子に座るなり、カカシはいきなり本題を持ちかけた。
「サクラとなんかあったんでしょ?」
 個人の問題にはあまり関わりたくなさそうに見えるカカシだが、さすがにこれは任務にも支障が生じると予想したのだろう。どうやら、なんとかして亀裂を埋めようとしているようだ。

 サスケはしばらく黙り込んだまま、赤い一楽の机を見つめる。
「大方、サスケが余りにもサクラに冷たいから、嫌われちゃった、とか?」
 互いに視線は交えない。カカシは店の奥をぼんやりと見つめ、サスケは机についた傷を見つめている。
「……八割がた、合っている」
「じゃあ、残り二割が”思わせぶりの行為“ってことかー」
 カカシのおどけた言葉に、サスケはピクリと身体を揺らす。確かあの場には、サクラとサスケとリーしかいなかったはずだ。では、なぜカカシが知っているのか。サクラやリーがカカシに話すとは思えない――ということは。

 サスケの予想通りの答えをカカシが出す。
「ごめんね、ちょっと聞いちゃったよ」
 悪気のないカカシに対し、サスケは憤怒の形相で睨みつける。「盗み聞きしたな?」と、普段よりも低く、冷たい声で言い放つ。
 殺気を感じ取ったカカシは、片目だけ見える顔に作り笑いを貼り付け、隣の少年を宥める。
「……俺は、思わせぶりなんてしていない」
「そうだ、お前の行動はサクラへの好意だ」
 間髪いれず、カカシが付け加える。

 サスケはぽかんと口を開け、慌てていつものクールな表情に変えた。カカシはそんなサスケを見て「初心(ウブ)だなー」と笑いながら呟く。
「そ、そんなことは……!」
 慌てて否定しようとするサスケを制するように、店主がラーメンを出した。普段よりも、チャーシューの数が多かった。
 店主は何も言わずに店の奥へ消えて行き、先ほどまでの外の喧騒も、いつの間にか疎らなものになっていた。静かな静寂が無色の空間を生み出し、何とも居心地が悪い。

 サスケが視線を右へ移すと、カカシのラーメンは既に消えていた。カカシは「ごちそうさまでした」と満足げに笑う。
 再び、自分の前にある湯気のたつラーメンを見つめ、サスケは静かに箸を割る。――パチンと乾いた音が鳴り、心地よい余韻が残る。

「サクラの前でくらいは、天才でクールなサスケじゃなくても、いいんじゃない?」
「別に――俺は……」
 サスケは口篭る。そして、気まずさを隠すために、勢いよくラーメンを啜る。
「サクラは、しっかりと分かってるよ。サスケの本当の良さを」
 ゆっくりと、噛みしめるようにカカシが言う。その目は虚空をぼんやりと見つめていて、独り言のようにも捉えられる。

 サスケは箸を止めた。醤油色のスープに映る自分の顔が、余りにも情けなく感じ、サスケは目を背けた。
「……かっこ、つけたのかったのかもな……俺」
「サクラの前では?」
 意地の悪そうな笑顔で問いかけるカカシだったが、不器用なサスケから返事が返ってくることはない。
 
 サスケは90度、サクラのほうに振り返る。視界の隅には、桜色の髪が見えた気がした。














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