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 うちはサスケは、動揺していた。あくまでも、それを行動や表情で表そうとはしない。だが、心の中は台風のように大荒れだ。
 理由は、同じ班の少女にある。その少女というものは、非常に愛らしい容姿で、常にサスケのことを好きだ好きだと言い、どんなに酷い返事を返されようともめげない、非常に明るくて頑固な女の子だ。

 そんな少女――サクラが、帰りのデートに誘ってこないのだ。
 これだけを聞くと「あなたはどんな自惚れ男ですか?」と言われるような不安である。だが、決して自惚れではない。
 サクラは毎日のように「一緒に帰ってもいい?」だの「ラーメン食べに行かない?」だのと言い、毎日任務後にはサスケに言い寄る。
 そんな毎日が続いているのだから、サクラの誘いを断るのは、既に彼の習慣になっている。

 だが、ここ数日――サスケを誘おうとしないのだ。それどころか、ナルトやリーの誘いに乗り、笑顔で去って行く。
 一日二日のうちは、サスケもせいせいすると思っていた。三日目四日目経つと、任務が終わった後、さりげなくサクラに話しかけてみたりもした。一週間経ち、自分が嫉妬しているような気がして、気にしないように努めた。

 今日で一週間と四日である。サスケはチラリとサクラを見やる。ちょうどそこへ、リーが通りかかった。
「あ、サクラさん! 映画館の隣に、新しい甘味処ができたのですが……」
「本当!? 行きましょ、リーさん!」
 サスケは動けなくなった。そして、今までの自分を見つめ返す。サクラが怒るようなことをしただろうか――心当たりがありすぎて、思考をやめた。そして気づく。自分はいつサクラに嫌われても仕方がなかったのだと。

 もう一度サクラを見ると、リーと肩を並べて歩き始めていた。次の瞬間――サスケは目を疑った。
 サクラが、リーと腕を組んでいる。
 何を話しているのかわからないが、サクラは楽しそうに笑っている。時折、頬を僅かに紅潮させている。――そんなことどうだっていい、どうだっていい。サスケは走り始めていた。

 サクラの腕を強引に掴み、自分のほうへ引き寄せる。
「サスケくん!?」
 ふいをつかれたサクラは、サスケの胸へ倒れこむ。サスケはリーを睨みつけ、サクラの頭をグッと押さえつける。

 勝ち誇ったようなサスケの笑みに、リーはあくまで冷静に対応する。
「何をしているんですか、サスケくん。これからサクラさんは、僕と甘味処に行くんです」
 サスケが何か言おうと口を開くと、サクラがサスケを思い切り突き飛ばす。サスケはなんとか踏みとどまったが、心はころころと転がるように動揺している。
 自分が軽く抱きしめたというのに、サクラは歓喜の声すら上げず、自分を拒絶したことに、戸惑いが隠せない。
「もう、思わせぶりはやめてよ!」
 怒ったような口調だが、サクラの瞳は潤んでいた。そんなサクラの態度が気に食わないのか、サスケの目尻が上がる。

「思わせぶり? お前の勘違いだろ、第一俺は――」
「……最低!」
 『最低』。サスケの思考回路がプツリと音をたてて途切れる。『好き』と言われたことは数え切れないくらいあるが、サクラに『嫌い』の意味の言葉を言われたのは、これが初めてだ。
 サスケが思い返してみると、前々から嫌われてもおかしい行動をしていたと、自分でも思うことができた。それなのに、今更こんなことをして何になるのだろうか。サスケは悪いほうへと思考を走らせる。

 固まったままのサスケを見ると、サクラは唇を強く噛んで、踵を返す。「リーさん、行きましょう」と背を向けたまま言い、数歩歩き出す。
「……僕は、サスケくんがこんなに情けない男だと思いませんでした。残念です」
 リーは大きな目を静かに伏せ、サクラの後を追う。
 走り出せばまだ間に合う距離。だが、サスケはサクラを追おうとはせず、サクラもサスケを振り返りはしなかった。

 二人はお互いに、180度違う方向を向き始める。視線が交わることなど、二度とないかのように――。














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