ずっと、揺れも動きもしない月を見ていた、ずっと




形も変わらなければ大きさも変わらない、地球から見たら随分変化のある面白いものだけど

任務が終了して、帰りのヘリの迎えを待っている最中にシオが駆け出した
ここからじゃみえない、それだけボソリと呟いてひょいひょいと建物を越えてどこかへ


(一体、どこへ)


時間もあって、いま時間はけっこう暗いしかなり危険、シオが駆け出した方向だけを頼りにさまよった
アラガミさえ出なければすごく静かな空間に、神機と自分の足音だけが聞こえる


ザッザッザッ、ガリリ
カリカリ、ガリ、ザッザッ

書いて消して書いて消して、俺の足音が止んで明確に聞こえたのは地面を削る音
案外簡単にシオは見つかって、自然にそこにいた


「おえか、き?」


くるっ

うんそうだよー、えへへって楽しそうな笑顔を浮かべて指の動きを止めて俺を見た
何を書いているのか文字ではないことは分かった、まだそんなに覚えていないから


「これ…ソ、マ?」

「うん!分かるか!」


特徴のフードと前髪、少し怒っているようなへの字の口、シオの絵はうまかった

(でも、目が消されてる)

多分さっき聞こえていた音はこれだったんだ、砂が左右に分けられていた


「なあなあ、ニア」

描かれなかった目に、

「月、見えるか?」

月の姿は写らないの


「…みえな、い」


そっかあ、シオは残念そうに言うとうなだれてしまった
現実的に言えばしっかりと俺の目には写っていた、何の変化もなく太陽に照れされるがままの月が

(綺麗なのに勿体ない)

俺はガシャンと音を立てて神機を置いた、シオが音に少しだけ反応した
大勢を戻して、目は描かないのかと聞いてみた、シオは困った顔した


「んー困って困って」


俺、いい?うんいいよーって貰った木の棒、左手で受け取って右手に渡す、少し暖かかった気がした

ガリガリガリ、ガリ



(俺は、目を描いた)




あの事件から、俺はシオの姿を見ていない、それは月にいるから仕方ないのだけど
ただ、あれからソーマが仕切りに月を眺めてる


「そー、ま」


真夜中、屋上、元々ここによくソーマは来ていたけれど、その頻度は確実に以前より増していた
呼びかけてみれば眉間にシワを寄せる、不満そうな顔


「…何か用か、」

「いいえー」


ふいっ、俺の言葉を最後まで聞かずにそっぽを向かれてしまった
多分、用ってもんがあっても今のソーマは聞いてはくれないんだろうな

俺は黙ってソーマの隣に立って空を見上げた、真っ暗闇の中にぽうっと光る月、いまは姿が違うけれど
ソーマは、いま計っているのだろうか、じっと黙って見る月は目で計れる距離なんだろうか
動きのない変わった月をただ見る顔は複雑、俺は思い出す



あの時、俺は目を描いた、月に向かってニッコリと微笑んでいるソーマを

シオはこれじゃ目が開いてないと言っていたけど、口まで丁寧に書き換えさせてもらって
それでもシオは俺が置いた木の棒を拾いはしなかった、ただソーマ笑ってるな、目開いてないな、と、満足そうな表情で何度も言っていた


ねえ、ソーマ、そこのソーマ、君はそこから月との距離が分かるかい?

「…シオ、」







ソーマの声が、
月に向かって聞こえた

(月、見えるか?)(うん、)(よく見えるよ)






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