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涙だけは止まらなかった



※トキヤ≠HAYATO
トキヤとHAYATOが実の双子って設定



――曲を作らなきゃいけない。

気持ちばかりが先走って、行動がついてこない。
そんな自分に嫌気がさす。

ドラマの曲のお仕事の依頼を受けた。
だけど、〆切は明後日。
このままじゃ絶対に間に合わない。

「春歌ちゃ〜ん、いる?」
「HAYATOさまっ…?」

レコーディングルームのドア越しに聞こえるのは、確かにHAYATO様の声。
わたしの声を確認したのか、HAYATO様はゆっくりレコーディングルームのドアを開けた。

「例のドラマの曲作りしてるの?」
「…はい…でも全然できなくて…。〆切は明後日なのにこのままじゃ……」

そう言ってスカートの裾を強く握る。だって悔しかったから。
確かにイメージは浮かんでるのに。奏でることができない。
それがもどかしくて、辛い。

今まで我慢してたのに、HAYATO様に会ったら堪えられなくなって、うっすらと瞳に涙が滲む。

――泣いたって何も変わらないのに

痛いほどそれが判るから堪えてた。
なのに何でだろ…?今は涙が溢れて止まらない。

「春歌ちゃん……」
「あっ…ごっごめんなさいっ…あっ…ッ……」

変わらないのに、泣いたって何も。
その上、HAYATO様の前で泣いちゃったら、HAYATO様を心配させるだけなのに。

「春歌ちゃん」
「はい……?」

呼ばれてそっと顔を上げると、涙を舐めとられる。
びっくりして、恥ずかしくて、思わず舐められた箇所を手で覆った。

「はははははHAYATO様!?」
「や〜っと泣き止んだね!」
「へ……?」

確かに恥ずかしくて、その上びっくりして、泣くどころじゃなくなっていた。
いつの間にか、止めどなく流れていた涙は渇いていて。

私が泣いていたから。だからHAYATO様は泣き止ませようと気を遣ってくれた。
それが申し訳なくて、でも嬉しくて、何とも言えない気持ちになる。

「HAYATO様…気を遣わせてしまって、すみませんでした……」
「謝らないで!だって泣きたいの、ずっと我慢してたんでしょ…?」

そう言って、HAYATO様は私を優しく抱きしめる。

「は…HAYATO、様……?」
「曲が作れないときはしょうがないよ!明日があるよ、明日が!……ね?今は何も考えずにさ、ボクの腕の中にいて…?」

伝わってくるHAYATO様の心臓の鼓動。
その規則正しい音が心地よくて、私は彼の腕の中で目を閉じた。

明日は曲が作れますように、なんて思いながら。


涙だけは止まらなかった
(だってあなたが温かかったから)

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