※トキヤ≠HAYATO
トキヤとHAYATOが実の双子って設定
*
――曲を作らなきゃいけない。
気持ちばかりが先走って、行動がついてこない。
そんな自分に嫌気がさす。
ドラマの曲のお仕事の依頼を受けた。
だけど、〆切は明後日。
このままじゃ絶対に間に合わない。
「春歌ちゃ〜ん、いる?」
「HAYATOさまっ…?」
レコーディングルームのドア越しに聞こえるのは、確かにHAYATO様の声。
わたしの声を確認したのか、HAYATO様はゆっくりレコーディングルームのドアを開けた。
「例のドラマの曲作りしてるの?」
「…はい…でも全然できなくて…。〆切は明後日なのにこのままじゃ……」
そう言ってスカートの裾を強く握る。だって悔しかったから。
確かにイメージは浮かんでるのに。奏でることができない。
それがもどかしくて、辛い。
今まで我慢してたのに、HAYATO様に会ったら堪えられなくなって、うっすらと瞳に涙が滲む。
――泣いたって何も変わらないのに
痛いほどそれが判るから堪えてた。
なのに何でだろ…?今は涙が溢れて止まらない。
「春歌ちゃん……」
「あっ…ごっごめんなさいっ…あっ…ッ……」
変わらないのに、泣いたって何も。
その上、HAYATO様の前で泣いちゃったら、HAYATO様を心配させるだけなのに。
「春歌ちゃん」
「はい……?」
呼ばれてそっと顔を上げると、涙を舐めとられる。
びっくりして、恥ずかしくて、思わず舐められた箇所を手で覆った。
「はははははHAYATO様!?」
「や〜っと泣き止んだね!」
「へ……?」
確かに恥ずかしくて、その上びっくりして、泣くどころじゃなくなっていた。
いつの間にか、止めどなく流れていた涙は渇いていて。
私が泣いていたから。だからHAYATO様は泣き止ませようと気を遣ってくれた。
それが申し訳なくて、でも嬉しくて、何とも言えない気持ちになる。
「HAYATO様…気を遣わせてしまって、すみませんでした……」
「謝らないで!だって泣きたいの、ずっと我慢してたんでしょ…?」
そう言って、HAYATO様は私を優しく抱きしめる。
「は…HAYATO、様……?」
「曲が作れないときはしょうがないよ!明日があるよ、明日が!……ね?今は何も考えずにさ、ボクの腕の中にいて…?」
伝わってくるHAYATO様の心臓の鼓動。
その規則正しい音が心地よくて、私は彼の腕の中で目を閉じた。
明日は曲が作れますように、なんて思いながら。
涙だけは止まらなかった(だってあなたが温かかったから)
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