初めて恋をした。今まで地味で冴えないと言われ続けたわたしが。恋になんて触れたこともなかった。
だから最初は気づかなかった。この恋心に。
早乙女学園にいた頃が今では懐かしく思う。一緒になって恋愛禁止令を、学園を変えたことを。
今では音也くんは立派なアイドル。あとはCDデビューを残すのみとなった。
だけど、少しだけ寂しい。アイドルになったことで色んな人が音也くんのことを知ってしまった。
もちろん、それは音也くんの願いであり目標だった。わたしもそのために一緒に早乙女学園で過ごした。
だけど、事務所に届く音也くん宛の手紙やプレゼントやお花。
ファンの方々が音也くんのことをすごく想ってくれいて、嬉しくもあるけど寂しくもある自分がいる。
けど、いまはそんなことを言っている場合じゃない。精一杯の笑顔を音也くんに向けて口を開く。
「音也くん!」
「ん?なに、春歌」
「曲、出来ました!」
「ホント!?」
「はい、…音也くんを想って作曲しました」
恋を知らなかったわたしに恋を教えてくれた。音也くんが。人を好きになるということ、人を愛するということ。
「…歌詞、書いていただけますか?」
「うん!書く!春歌のこと想って!」
――恥ずかしい…!
そう思って俯くと、音也くんは優しく抱きしめてくれて。
「音也くん……?」
「ねぇ、春歌…俺のこと好きならいつもみたいに笑ってよ…。今日の春歌変だよ…?」
抱き締めてくれている腕に力が入った。痛いくらいに。
「あのっ…ファンの方々からの贈り物を見て、やっぱり音也くんはみんなの音也くんなんだ、って実感して……」
「違う。今は『みんなの音也』じゃなくて『君だけの音也』」
そう言って、触れるだけのキスをしてくれた。ただそれだけなのに、ひどく安心した自分がいる。
「言ったでしょ?春歌のこと想って作詞するって――…」
わたしが音也くんを想って
音也くんはわたしを想って
1つの曲が完成する。
これからもずっとずっと一緒に、音也くんの隣で1つの曲を作っていきたい。
だって、これがわたしの最初で最後の恋なのだから。
終わらない恋になれ
(ずっとずっと、あなただけを想っていたい)
戻る