※多分トキヤと主人公は成人済み
*
「バレたらどうしますか?」
真っ直ぐな目でわたしを見てきた一ノ瀬さん。
話の脈絡がなかったために、聞き返す。
「バレるって、何がですか?」
「…私たちが付き合っているという事実です」
ドキンと、心臓の鼓動が速くなる。だってそれはバレてはいけないことだから。
早乙女学園卒業後、一ノ瀬さんは多大なる人気を得て、今では日本を代表するトップアイドルとまでなった。
そんな一ノ瀬さんにスキャンダルなんて絶対ご法度。
「…もしバレたら…どうしましょう…」
返す言葉がなかった。
もしバレたとしても、わたしは一ノ瀬さんが本当に好きだから、別れるなんてしたくない。
――だけど、一ノ瀬さんは…?
もしかしたら別れるつもりなんだろうか…?
わたしは絶対嫌だけど、一ノ瀬さんのためにはそれが一番いいかもしれない。
本当は嫌、だけど。
「あっ、あの…もしバレたら…別れ…ますか……?」
「はあ…?」
眉間にシワをよせて、わたしを見る一ノ瀬さん。
それは、まるで怒っているかのように。
「春歌…。君は私と別れたいんですか?」
「ちっ、違います…!でも、一ノ瀬さんのことを考えたら…それが…一番なんじゃないかって……」
「…悪いですが、私はあなたを手放すつもりはありません」
そんな恥ずかしいことを一ノ瀬さんは全く照れずに、真っ直ぐに目を見て言ってきて。
恥ずかしさから真っ赤になっていく、わたしの顔。
「あっ、あの…一ノ瀬さん……」
「…前から言おうと思っていたんですが、その『一ノ瀬さん』と言うの、やめていただけませんか?」
「えっ……」
――不安になる。
さっきから一ノ瀬さんがおかしくて、どうしていいか判らない。
「あっ、あの…ごめん、なさい…」
ハァ…、と一ノ瀬さんは小さく溜め息をつくと、わたしの左手をとる。
すると、ポケットから何かを取り出して、わたしの薬指にはめた。
「一ノ瀬さん…これって……」
――指輪…?
「あなたはこれから名字が『一ノ瀬』になるんですよ。なのに私を『一ノ瀬さん』と呼ぶのはおかしいと思いませんか?」
「えっ…あのっ…」
「これからは、名前で呼んでいただかないと」
混乱してしまう。
だって、さっきまで一ノ瀬さんは怒ってるものだと思っていたから。
「あっ、あの……」
「『トキヤ』。…呼んでみてください」
「…トキヤ、くん」
何年間も名字で呼び続けていたのに、いきなり名前で呼ぶのはとても恥ずかしくて。名前を呼ぶ声がいつもよりも小さくなってしまった。
だけど、一ノ瀬さんは満足げな顔で。
「七海春歌さん。…もし私との関係がバレたら、そのときは結婚してください」
「えっ…あっ…あのっ……」
頭がすごく混乱して、なんて返事をしていいか判らない。
『はい』って言えばいいのに、口から何も言葉が出てこなくて。
その代わりに、大きく頷いた。だって嬉しかったから。
すると、一ノ瀬さんは優しい顔でわたしの方を見る。
「…良かった。これからも、ずっと私の傍にいてください」
そう言って、私を包み込むように抱きしめる一ノ瀬さん。
もし関係がバレたとしても、ずっと一緒にいれるという安心感から、わたしは一ノ瀬さんに身体を預けた。
――バレるのも悪くないかも。
なんて、いけないことを思いながら。
秘密の恋がバレたら(そのときは、結婚してください)
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ちょっと前に日記で書いた妄想を文章にしてみた
トキヤはバレたら潔く結婚しそう
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