「ねぇ、春歌。キスして?」
そう唇に指を当てて、キスを促す。
だけど返された言葉は――…
「えっ、えっ、えええええ!?むっ無理ですっ!!!」
顔を真っ赤にしながら、俺がいる方の反対側へと走り出そうとする春歌。
その腕をそっと掴む。
「ねぇ…ダメ?」
「だっ、だって…したことないですし…」
「したことないからするんじゃん」
「でっ、でも……」
観念したのか、真っ赤になりながら項垂れる春歌。
俺が目を瞑ると、そっと近づいてくる気配。
だけど次の瞬間、その気配は離れていく。
「…春歌?」
「どういう風にしたらいいか解らなくて……」
「…どういう風って?」
「あっ…、顔が近くて恥ずかしい…です…」
わざと、春歌と顔を近づける。
その瞳に、俺が映ってるのを確認できるくらいに。
「音也くん…?」
「唇が触れる直前に目を瞑るんだよ。そうすれば恥ずかしくない」
「じゃあ、音也くん…目、瞑っててください……」
言われて、そっと目を瞑る。だけど、薄目で見ることは忘れない。
最初はちょっと迷った風にも見えたが、覚悟を決めたのか、その唇はそっと、俺の唇に触れる。
ただ触れるだけの軽いキス。
それだけなのに、触れたところがひどく熱い。
「……春歌」
「…恥ずかしかったです」
「うん。恥ずかしがってたの見てたから」
「………?ええええええ!?ま、まさか…音也くん…みみみ見てたんですか!?」
もともと赤かったのに、更に赤くなった顔。百面相がとても可愛い。
「もっ、もう…!目瞑るって言ったのに……」
恥ずかしがって、自分の顔を手で覆う春歌。
その手を、そっとどけさせて、今度は俺の方から唇に触れる。
「…っ、…んん……」
春歌がしたものとは違う、深いキス。
唇だけじゃなくて、身体中が熱くなるようなキス。
「…音也、くん……」
「今度は、春歌からしてね…?」
――無理です。
彼女の口からそう出かかった言葉を、また自分の唇で塞ぐ。
彼女のほうからちゃんとキスしてくれるのは、いつになるんだろうか、なんて思いながら。
君からのキスはいつも短い(もっと、長く、)
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