「黄瀬くん、…どうしたんですか」
「どうもしないよ、何で?」
振り返った顔は満面の笑みを浮かべていて、それだけならいつもの彼なのに、
手に握られていたのは首輪。
「…何ですか、それ」
「これでずっと一緒にいられるっスよ」
また、笑う、その顔は純粋で綺麗で、
ぞくりと鳥肌が立つのが分かった。
逃げようと立ち上がりかけたその瞬間、伸びる腕が視界に入った。
「っ、……た…!」
ずしりとのしかかる黄瀬くんの身体と重み。
床に勢いよくぶつけた背中が痛い。
「…なんで逃げようとするの?」
「……黄瀬くん、どうし…」
「ねえなんで逃げようとするの?」
声が出ない。
目の前にいる黄瀬くんが怖くてたまらない、
声はいつもの優しい彼のものなのに、
「…好きなら一緒にいたいでしょ?」
「黄瀬くんのことは、好きです、けど」
目が。目だけが笑っていない。
「じゃあずっと二人でいよう?」
「……っ痛、」
掴まれた手首がぎりぎりと音を立てる。
こちらを捉える視線は鋭い、心臓を鷲掴みにされているみたいに苦しい、
痛い、痛い、
「ずっと一緒っスよ?嬉しいでしょ」
「黄瀬くん、」
「ずっと二人で、ご飯食べて、話して、それでいいじゃないっスか」
「…そんなの、」
こんなことを言う人じゃなかったはずだ、
こんなことを言う人じゃ、
…本当に?
「ねー黒子っち、俺、本当はすっげー嫉妬深いんスわ」
「……え?」
「だから嫌。黒子っちが他の男と会話するのだって、ましてや、…触れられるなんて」
唇をそっと指が撫でる。
かさかさに乾いたそれは小さく音をたてた。
「今日のあれ何?他の奴にキスされてたやつ」
「…キス?」
「廊下で」
「…あれは事故ですよ、前を向いてなかった彼がぶつかって、」
キスなんてほどのものじゃない。
放課後の廊下、
人混みをすり抜けて走っていた男子生徒とぶつかって、もつれて転んで、首筋に彼の頭が落ちた。触れたか触れないか、キスなんて呼べる代物じゃなかった。
「それに話したこともない人ですよ、…説明したじゃないですか」
遠くでたまたまそれを目撃していた黄瀬くんの顔が妙に険しくて、理由を問おうとする間もなく無言で手を引かれて彼の家まで来て、そして今に至る。
「うん、でも事故でも嫌」
「嫌って…」
「黒子っちは俺だけのだから誰にも触れさせたくない」
「そんなの、」
「…そしたら気付いたんスわ、だったら触れさせなければいいって」
「そ、………んっ…!」
言い返そうとした口を塞がれる。
「ん、っんん…!」
乱暴に服の中をまさぐる手。
「…っん!んっ、ゃっ、」
後孔に無理やり潜り込んでくる指、痛みに逃げようともがくほど、押さえ込む力が強まった。
「痛いの?可哀相、…ちょっと待ってて」
そう言うと台所に向かう。
逃げたいのに身体が動かない。何が待っているのか想像もつかなくて、うまく息ができない。
「ちょうどいいのがこれしかなかったけど、まぁいいっスよね」
手にしていたのは、
蜂蜜。
「…や、…っや…!」
「やだなぁ、逃げないでよ」
もがく腰を掴まれて、足の間に入り込まれる。
「ちょっと我慢してね」
「っひ、ぁ、…!」
冷たい感覚が襲う。どろどろとした液体が潜り込む、ずぷずぷという音、
「っぁ、あ、…や…!」
蜂蜜を流し込みながらゆっくりと抜き差しされる指。内壁に絡みついた蜂蜜がぐちゅりと音を立てる。
「ひ、ぁん…っ」
「入れるよ?」
肉を掻き分けてくる、熱い、
「っぁ…、あぁ…!」
熱いのは彼のものか蜂蜜か、それとも両方か、もう判断する思考能力はどこにもない。
「っあ!っや、ぁっ…」
「ね、こうやっていつでもセックスできるっスね、朝でも昼でも」
「っや、…ぁ、あんっ」
「黒子っち淫乱だからいつでも欲しがるもんね?」
自身を緩やかに扱かれる、先端をなぞられて。
「っやぁ、だ、めっ…!あ、ぁっ、」
「やっば…気持ちい、」
「っあ、あ、ぁ…っ」
突き上げの速度が増す、
思わず背中に腕を回すと、それよりも強く抱きしめられた。
「…黒子っち、…大好き」
「っん、ふ、…っぅ、…んっ、」
いつもと同じ、優しい声と指、
なのに口付けた瞬間に見えた顔は、なぜか泣きそうに歪んでいた。
「っぁ、…ぁ、あっ…!」
「……っ」
中に彼のものが注がれる感覚と、
抱きしめたまま顔を埋めて、好き、と繰り返し呟く彼の声。
耳元で感じながら、
薄れていく意識に身を任せた。
「………ん…」
何時間たったのだろう、
身体を起こすと鈍い痛みが背中を走る。
分厚いカーテンの隙間から光が差し込む、立ち上がると掛けられていたタオルケットが音を立てて落ちた。
「……黄瀬くん、」
見渡すけれど姿はない。
身体は綺麗に拭かれていた。
カーテンを開けると眩しい光に目が眩む。瞬間的に片目を閉じて、前にも同じ光景があったのを思い出す。
ただ、あの時は、隣に彼もいたけれど。
『眩しいですね』
『うん』
それだけ交わしてどちらからともなく口付けた、何の変哲もない過去の出来事。
「……黄瀬くん」
歩く足に力が入らない。よろけてぶつけた肩は剥き出しだからか、普段よりも痛みが強いように思えた。
リビングを横切った瞬間、テーブルにある白いものが目に入る。
…白い紙。
近付いて手に取ると、小さな紙に小さな文字、
『 ごめんね 大好き 』
はた、
音のない部屋に響いたのは、落ちる涙のそれだった。
「黄瀬くん、」
霞んだ視界に彼の文字がぼやけて、浮かんでは消える。
『好き』、
最後に聞いた言葉は確かに昔の彼と変わらないものだった、頭の中で繰り返し再生される優しい声。
またあの声が聞きたくて、戻りたくて、
そう願う指は震えていて、紙は小さく音を立てた。
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るるみらる様・瑠兎様より、黄黒で両思い前提の監禁とリクエスト頂きました。お二方のリクエストのシチュエーションがほぼ同じ内容でしたので、連名で捧げさせて頂きます。
素敵なリクエストをありがとうございました!
20120715