ピンポーン、
インターホンが鳴った。
「あ、ぼくでます」
「お前ドアに手ー届くの?」
「だいじょうぶですよ」
のろのろと歩いてドアへ向かう姿がなんだか危うくて、早歩きで追い抜かす。
「やっぱ俺が出る」
「そうですか?」
ドアを開けた途端、姿と一緒に騒がしい声が飛び込んできた。
「っス!黒子っちに会いに来ましたー!」
「何なのだよ突然呼び出して」
「おい黄瀬引っ張んなよ!」
俺の部屋にずかずかと上がり込む。
「あれ?黒子っちどこっスか、メールが一斉送信されたんスけど」
黄瀬の携帯を覗き込むと、
『大変なことになりました。今は火神くんの家にいます』
一文だけの簡素なメール。
「大方風邪でも引いたんだろう、季節の変わり目は体調を崩しやすいからな。情けない奴だ」
「とか言って緑間っちー!何スかその薬ばっか入った手提げ袋!」
「あんな症状の分からないメールを送るのが悪いのだよ!」
どうやら色々想像して心配したらしい。
原因は全部、黒子の紛らわしいメールのせいだな。
「つーかテツどこだよ?」
若干イライラし始めた青峰が辺りを見回す。コイツカルシウム足りないんじゃねーの、似てるとか黒子に言われたけど御免だよ。
あとでホットミルクでも作ってやろうか、あーでもそんなことしたらもっとキレるかも。
「おい聞いてんのか火神」
「あ?あー、黒子なら…」
「ぼくはここです」
足にしがみついていた黒子がひょこりと顔を出した。
「………っ!?」
「テ…!」
「黒子っちぃぃぃ!?」
素っ頓狂な声が飛ぶ、あんぐりと開いた口。当たり前だよな、俺だってまだ驚いてるんだ。普通は固まっちまうよな…
と思っていたら。
「何スかこの黒子っち!持ち帰っていいっスか!?」
「きせくん、こまります」
瞬間的に黄瀬が黒子を抱きしめて頬擦りする、少し苦しそうな黒子と目が合った。
「ちょっ…お前!」
俺だってまだ抱きしめてねぇんだよ!
「か、かがみくん」
こっちに向けて伸びた手を掴んで抱き上げる。
「あーなんで!黒子っち!」
「お前マジふざけんな」
黒子を床に下ろすと、弱い力でデニムが引っ張られた。
「かがみくん、やっぱりたかいほうがいいです。みあげるのはつかれます」
「あー、そーか?」
まあ確かに首疲れるよな、俺たち普通より背ー高いし。
それなら肩車をしようと身体を持ち上げた瞬間、頭上でゴンという鈍い音がした。
「…いたいです、かがみくん」
見上げると頭を押さえて俯いている。肩車をすると天井にぶつかってしまうらしい。仕方ない、腕に抱えることにした。
「悪りー悪りー」
「もう…」
視線を感じて隣の黄瀬の顔を見ると、不満さを全面に出した表情。
「…何ー、何なんスか?見せ付けるために俺たちは呼ばれたって訳っスか?」
「付き合ってられん、帰るのだよ」
「いや俺は帰んねーぞ!逆にムカつく」
「青峰っち、それも何か…」
青峰がブツブツ文句を言いながら床に寝そべると、他の二人も座ってくつろぎ始めた。黒子はまた俺の足の上に座る。
腕におさめた黒子の頭に顎を乗せて遊ぶ。
「おもいですよ」
「んー?そっか?」
緑間が口を開く。
「黒子、いつからそうなったのだよ?」
「あさおきたらこうなってました」
「意味分かんねーよ、思い当たる原因ねーのか?テツ」
青峰が黒子の頬を人差し指でぐりぐりと突きながら言うと、眉をひそめながら口を開いた。
「わからないから、みなさんのいけんをききたくてよんだんですよ」
「ふーん…」
「まず昨日一日を振り返ったらどうだ、何かヒントがあるかもしれない」
「そうですね、きのうはカレーをつくりました」
「カレー?学校でか?」
「違う違う、一昨日からオリエンテーションでキャンプ行ってたんだよ」
「マジで!?黒子っちとお泊りっスか!?」
「キャンプとかマジだりーな」
「そういって、あおみねくんはいちばんさいごまで起きてるタイプですよね」
「んなことねーよ!」
「ありますよ」
それより、と緑間が遮る。
「このままではバスケどころか日常生活に差し支えるだろう。他に変わったことはなかったのか?」
「とくにおもいつかないです」
「まぁフツーに考えてありえない話っスよねぇ」
黄瀬がからからと笑う。
「…それなら、昨日一日と同じ行動を取ってみるのはどうだ?その中で思い出すことがあるかもしれない」
「マジ!?皆でキャンプっスか!?」
「幸い今日から三連休だからな、時間的にも余裕があるだろう」
「めんどくせーなぁ…」
緑間が横目で見やると、行かないとは言ってねーよ、と答える青峰。
「異論はないな、黒子」
「はい。かがみくん、一緒にいいですか?」
「……おう」
勝手に仕切り出した緑間に不満がない訳じゃないけど、今出来るのは確かにそれくらいしかないかもしれない。
「言っている意味が理解できないならもう一度説明してやるが、火神」
「分かるっつーの!馬鹿にすんじゃねーよ!」
正直結構面倒だ、全員気が合う訳じゃねーし。
そう思いながら腕に抱いた黒子を見ると、何だか嬉しそうな顔をしていた。
大声で騒ぐ三人を見つめる口元は笑っている。
そのまま後ろから抱きしめて力を込めると、黒子が小さく呻いた。
「?…なんですか?」
「…何でもない」
「くるしいですよ?」
「お前がちっこいからだろ」
俺よりも長い付き合いだから懐かしいのは分かるし、黒子が楽しそうならいいけど。
でも俺以外の奴を見て嬉しそうな顔をしてるのは、ちょっと悔しいかもしれない。
「各自支度をして2時間後に駅に集合だ、いいな」
「へいへい」
「2時間で支度出来るっスかねー」
「一分でも遅れたら置いていくのだよ」
「一分でも!?…りょーかいっス」
騒ぎながら三人が出ていくと、途端に部屋が静かになる。
「したくしましょうか」
「おー。つーかさ…」
「はい?」
「お前ショルダーバッグと同じ大きさじゃね?」
そう言うと、
「って」
「ばかにしないでください」
いつもよりも弱い拳を喰らった。
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