少し冷たい風が頬を撫でる。
朝と夜の気温差に身体がついていけないけれど、朝の冷たさは嫌いじゃない。雲の隙間から射した朝日に目を細める。
「はよー、テツ」
「おはようございます青峰くん、朝からいるなんて珍しいですね」
「さつきに叩き起こされたんだよ、そのくせ忘れ物したとか言って戻るしよ」
「そうなんですか」
だるそうにあくびをするのが横目で見える。
「なぁ昨日のテレビさー…」
何だろう。
何だかいつもと違う。
「黒子、お前のクラスの担任が探していたのだよ」
「そうですか、ありがとうございます」
…違う。
「あ、黒ちん。お菓子持ってない?」
「すみません、持ってないです」
隣をすり抜ける瞬間、彼の舐める飴の甘い匂いが鼻をくすぐる。
これも違う、
「黒子ちょうど良かった、今日の部活の」
「赤司くんすみません、僕は用事が」
「そう?ああ、あいつも君を探していたよ」
「誰ですか?」
ほら、あそこ。
指を指す先、
窓から顔を出すと遠くに見える、
気が付いたら駆け出していた。
止まろうとはひとかけらも思わずに。
「あーっ黒子っち!探してたんスよ、でも見ての通り囲まれちゃって」
女の子たちの声で掻き消されて、うまく聞こえない。
「っ……は、…っ」
「どうしたんスか、息切らして」
こっち向いてよ、ねえ黄瀬くん、色んな声が彼を求める。
でも、
「すみません、お借りします」
彼を一番に求めているのはきっと、
「っわ!黒子っち待って、コケる、コケるから」
腕を掴んで走り去る。
なんで、黄瀬くん待って、彼を呼ぶ声が後ろで聞こえる、聞かないことにして走り続ける。
「っ…は、…黒子っち、どうしたんスか、突然…」
樹にもたれ掛かって荒い息をついている。
校舎の端から端まで走り続けて、立ち止まった途端に息が切れて、互いに上手く喋れない、裏庭。
樹に手をついて少し屈んだ、その隙に、
「黒、…っ…………!」
抱き着いて、口付けた。
「…君に、」
朝から声を聞いていなかった。
お昼休みも姿を見なかった。
違和感の正体に気付いてしまったら、
もう止まることが出来なかった。
「逢いたかったんです、…君に」
驚いたような君の顔、
けれど腰に回った腕の感触、
気付いたから、もう躊躇わない。
*******
黒→黄の、黄黒。