牙持つエフェメラル

光覚(空洞であることを千のひかりでしらせる)
呪うための内臓が私についていないとき 
夜を分配する余地
彗星ゆずりの過失
別離がやさしさの証明になるものか

手をつなぐ以上のことを想像しない
野火の擬態/永年草
さみしさできみの脊髄を埋めたい
いとしむたび下がる水位がある
春キャベツみたいなわらいかたをする

手のうちの祝
ニルヴァーナ、睫毛あたりで肯定してる
涙の流域からたちのぼる鋭利
累すら及ばない秒刻
泥と水をえりわける間隙

夜陰ともども明けそめようとする言葉
暮れなずむ、細胞ひとつくらい残ればいい
そもそもが奪って生きるぼくときみですし
クロマトグラフィ/暗がりと空虚が堆積する
しからば斜陽
体温だけがきみの宇宙になれたらいいのに
かるがるしく絶望を使うなよ
楽園の名がはらむ濁音
どこにも往けない獣性 
結び目をほどいていいから永遠などになるな

奈落となすには純度が足りない
雨滴でしか寄りそえない
満ちても欠けてもほのひかる
泥濘の深さをはかる足枷
燃え尽きるまでが恩寵

棄教すらしるべせぬ場所
脈打つはだか火
へき開せぬ角度
欠片ばかり降りそそぐここは常闇
永遠のかたちに腐っていく

ついにきみを春と呼べる可能性がないとき
定刻どおりの幕引き
歯牙ひとつぶんのインポート・コスモス
真冬の空位
うつしよとは病める幻想


この世すべての最果てになると約束したから、どんな海でもきみへ還ってしまう
for Shusei Kagari.
2021.8.7.