(そうか……!)
 彼はやっと想い出した。
 ずっと、抜け落ちていた記憶。
 それは少女――リッカと出逢った時の記憶だった。
「リッカ……ごめん……」
 彼の言葉に、少女は目を瞠る。
「――想い出して、くれたの……?」
「ああ……」
 彼はそっと、彼女の手を取る。
 氷のように冷たい。
(何故……?)
 彼が驚きを隠せずにいると、少女はふっと笑みを浮かべた。
「――私ね、人間じゃないのよ。この世界では“雪女”と呼ばれている存在。
 当然、人間とは住む世界も違うから、本来は関わったりしてはいけないのだけど……。
 でも、あなたと出逢ってから、私は人間になる事を強く望んだの。
 もちろん、そんな願いは簡単に叶えられない。
 そこで、母から与えられた条件は一つ……」
「――もしかして、さっき言った突飛な事?」
 彼が訊ねると、少女はゆっくりと頷いた。
「あなたがもし、私を忘れたままだったら、私はあなたを殺すしかなかったの。
 でも、あなたを殺す事なんて出来るはずない。
 ――だから、想い出してもらえなかったら、私は、自らの氷の刃で胸を突くつもりだった……」
 少女はそう言って、瞳から涙を零した。
 それは頬を伝い、小さな氷の粒となってゆっくりと落ちてゆく。
 彼は少女を抱き締めた。
 凍えるほど冷たい。
 それでも、彼女を離す事は絶対にしたくなかった。
 そして、強く包み込みながら、今度は彼が祈りを託す。

 彼女が、本当の人間になれるようにと――


the end


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