「散らかってるなんて、嘘じゃない」
 三分の一ほど飲んでから、私は言った。
「私はゴミ屋敷のようなのを想像してたから、すっかり拍子抜けしちゃった」
「何だよそれ……」
 貴之は眉根を寄せて、引き攣り笑いを浮かべた。
「幾ら俺でも、ゴミ屋敷だけはご勘弁願いたいよ。俺の同僚の中には、今、亜梨花が言ったようなゴミの中で生活してる奴がいるけど、ほんとにひでえからな。あんなのを目の当たりにすると、俺は絶対、あそこまでは落ちない、って考えるようにもなるさ。
 後は、余計な物を増やさない事だな。それに、俺は自炊は滅多にしないし」
「えっ?」
 自炊は滅多にしない、という言葉に、私は驚いてしまった。
「自炊しないって……。じゃあ、普段はまさか……」
「そ。コンビニ弁当か、ちょっとリッチな時は外食かな」
 これにはさすがに、開いた口が塞がらなかった。
 もしかしたら、いや、もしかしなくても、一般の独身男性はこんな感じなのだろうか。
「――よく、今まで体力持ったね……」
「んな大袈裟な事じゃないだろ? 確かに栄養は偏ってるかも知れないけど、ちゃんと食ってんだから問題な……」
「問題大ありでしょ!」
 私は思わず、貴之の言葉を遮るように怒鳴ってしまった。
 貴之は目を見開いて、私を凝視している。
「いい? 今は良くたってね、そんな食生活ばかり繰り返していたら、いつか必ず倒れちゃんだから!
 面倒でも、せめて休みの日ぐらいは自炊しないと! 分かったっ?」
 私はそこまで言い切ると、肩で息を繰り返した。
 貴之は暫し呆然としていたが、やがて「わ、分かった……」と頷いた。
「にしたって、そんなにムキになる事ないだろ。ビックリしちまったよ……」
 貴之の言う事は尤もだ。
 私も何故、ここまで熱くなってしまったのか。
 冷静になってみると非常に恥ずかしい。
「――ごめん……」
 私は項垂れながら謝罪を口にした。
 そんな私を、貴之は微苦笑を浮かべながら見つめている。


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