貴之(たかし)と想いが通じ合ったあの夏の日から、一年以上が経過した。
 私達は相変わらず、離れた場所でそれぞれ毎日を送っている。
 淋しくないと言えば嘘になる。
 でも、家族とも別々に暮らしている貴之はもっと辛いはず。
 それを思うと、自分ばかりが甘えた気持ちでいられない。
 ――頑張らなきゃ。
 私はいつも、心の中の自分に言い聞かせる。


 夕食もお風呂も済ませ、部屋に戻った頃、タイミング良く携帯電話が鳴った。
 流れるメロディは、電話着信用。
 私は慌てて、テーブルの上の携帯に飛び付いた。
 だが、すぐには出ない。
 動揺を悟られるのは癪なので、一呼吸着いてから電話に出た。
「もしもし?」
 電話に出る際の定番である合い言葉を言うと、相手もまた『もしもし』と返してくる。
 低くて穏やかさを感じさせる声音。
 この声を聴くたび、私の心はどんな時でも安らぐ。
『亜梨花、元気か?』
 電話でいつも話しているのに、随分と滑稽な質問をしてくる。
 私は可笑しくて仕方がなかったが、笑いたいのを堪えながら「元気だよ」と答えた。
「貴之はどう? 今日もお仕事だったんでしょ?」
『ああ、俺もどうにかやってたよ。仕事は相変わらずハードだけどな』
「そっか……。私は、お疲れ様、ってしか言えないけど……」
『いや。それだけでも充分だよ。――ありがと』
 貴之から感謝されるのは、素直に嬉しいと私は思う。
 同時に、自分は貴之の仕事については本当によく分かっていないので、〈お疲れ様〉以外の言葉をかけられないのが歯痒い。
 ――もっと、貴之の役に立てたらいいのに……
 そんな事を思っていた時だった。
『あ、亜梨花』
 何かを想い出したかのように、貴之が私の名前を呼んだ。
 私は小首を傾げながら、「どうしたの?」と訊ねた。
『いや、実は来週、久々に土日の二連休が取れそうなんだ。――ちょっと厳しいかも知れないけどさ、良かったら、久々に逢わないか?』
 貴之からの思わぬお誘いだった。
 私は真っ先に、しめた、と思い、「ねえ」と電話の向こうの貴之に呼びかけた。
「貴之、私、そっちに行きたい!」
『えっ……?』
 貴之の反応は予想通りだった。
 電話越しでも分かるほど、あからさまに驚いている。
 私は構わず続けた。
「だって、私は一度も、貴之のアパートに行った事がないんだよ? 付き合ってから一年以上も経っているのに、それって絶対に変じゃない。
 それに、誰にも邪魔されず、二人っきりで過ごしたい……」


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