ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ
剣の意味・5






「ブラッドだ!
ブラッドが攻めこんで来たーーー!」



それはまだ俺達が眠ってる時のことだった。
尋常ではない叫び声とけたたましいラッパの音に、皆、同時に目を覚まし、俺もすぐさま外へ飛び出した。



「マックス隊長に会わせてくれ!」

「よくも一人で乗りこんで来やがったな!」

大柄なメイスンが後ろから槍を振り回し、不意をつかれたブラッドはいとも簡単に馬から落ちた。



「隊長に何をするつもりだ!」

「よくも俺達を裏切りやがったな!」

仲間達の怒りが爆発した。
集団でブラッドに襲いかかる仲間達…ブラッドは、必死で身を交わすが、なんせ人数が違う。
俺もブラッドには腹が立ってた…だけど、こんなのは違う!
俺達は騎士だ!
いくら、相手が裏切り者でもこういうやり方は間違ってる!
そう思う心と裏腹に、俺は動けなかった。
偉そうなことを考えても、心のどこかで良い気味だって思ってる俺がいたんだ。



「覚悟しろ、裏切り者め!」

そんなことを考えているうちに、ヒースが剣を振りかざした。
皆、ヒースの気迫に押されたのか、ブラッドの側をさっと離れる。
なのに、ブラッドは剣を抜かない。



(なぜだ……なぜ、剣を抜かないんだ!)



「死ねーーー!」

「やめろーーー!」



ヒースが動いたのと同時に俺は、ヒースに体当たりしていた。
だけど、奴の剣先はブラッドの脇腹に突き刺さり、そこから赤い血がどくどくと噴き出していた。



「ブラッド!おまえ、なぜ……」

俺は、血を止めようとブラッドの傷を押さえた。
生温かい感触が俺に伝わり、なんとも言えない罪悪感が俺の胸を締め付けた。
ブラッドは、そんな俺を憐れむように微かに笑った。



「おまえ達、何をしている!」

騒ぎを聞きつけたマックス隊長が駆け付け、ブラッドを見ると、てきぱきとした所作で傷口を押さえ、次々と指示を出すと、ブラッドを宿舎に運んで行った。







(なぜ、俺はあの時すぐに行動しなかったんだ?
なぜ、みんなにやめろと言えなかったんだ……)



俺の胸に広がるのは、後悔だけだった。



しばらくして俺達は集められ、マックス隊長から重大なことを聞かされた。
それは、ブラッドがスパイとして、モリダニアに潜入していたということだった。
こちらの戦略が前もって感付かれることから、こちらに裏切り者がいることが予想された。
それを探り出すために、ブラッドは敵国に向かったのだ…と。
ブラッドは、ようやく探り出したスパイの正体を伝えるべくここへ来たのだ。



「そ、そんな……」

ヒースはがっくりとその場に膝を着いた。



「隊長!ブラッドの容態は…!」

「傷は深い。出血も大量だ。
残念だがおそらく……」

マックス隊長は、俯いて静かに首を振る。



身体が震えるのがわかった。
取り返しのつかないことをしてしまったという恐怖が、俺の身体を震わせた。



わかってたはずなのに…
あいつがどんなにすごい奴なのか、俺は誰よりも知ってたはずなのに……



なのに、なぜ、俺はあいつを信じることが出来なかったんだ…!!





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