ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







「どうじゃな、少しはすっきりしたかな。」

アーロンは、カップを持ったまま、どこか照れ臭そうに小さく頷いた。



「ところで、おまえさん…ここに辿り着くのにどのくらいかかったね?」

「……一年程でしょうか…」

「その間、おまえさんはずっと彼女のことを考えておったんじゃろ?
起きている間だけではなく、寝ている時でさえもな。
……思い出す彼女の記憶は、どんなもんじゃったかね?
すべてが悲しいもんじゃったのか?」

アーロンは、カップをテーブルに置くと、ゆっくりと首を振る。



「……エレーナは、しっかり者のように見えてそそっかしい所があって…
特にお菓子造りは苦手だったようで、砂糖と塩を間違えたり、とんでもなく膨らんだケーキを作ったり…そんな彼女の失敗が可愛くて、僕らはよく笑いました。」

アーロンは目尻の涙を指で拭いながら、小さな微笑を浮かべた。



「そう…彼女は元々朗らかでよく笑う子だったんです。
人をびっくりさせることが好きで、子供みたいな悪戯をし掛けられたこともよくありました。
だけど…そんな楽しかった思い出すらも、今の僕には悲しく思えます…」

「それは仕方のないことじゃ。
無理をする必要はない。
おまえさんはかけがえのない宝物を失ったのじゃから…」

老人は、アーロンの背中をぽんと叩いた。



「……じゃが、心を闇色に閉ざしてしまってはいかん。
どんな人間の人生にも、ちょっとした嬉しい事、楽しいこと、おかしいことがあるもんじゃ。
どれほど泣いても構わんが、そういうものの存在から目を逸らすな。
時が経てば徐々にそういうものが増えて来るからな。
……エレーナは苦しいばかりの人生を過ごしたわけでもなければ、生まれて来たことを恨んで死んでいったわけでもない。
花を咲かせることはなかったかもしれんが、おまえさんと巡り合い、短くとも幸せな時を過ごせたんじゃ。
子供を救うことが出来て、満足して逝ったんじゃ。
死んだからとて、おまえさんとの幸せな時期がなかったことになるわけでもなく、おまえさんとの絆がなくなるわけではない。
アーロン……目を閉じて、彼女の最期の言葉を今一度思い出してみなされ。
彼女がいつも傍にいることを心の底から信じてみるんじゃ。」

「心の…底から……」

アーロンは老人の言葉を繰り返すと、ゆっくりと目を閉じ、浅く俯いた。
老人が静かに見守る中、アーロンは身動き一つしなかった。
しばらくするとアーロンの閉じた瞼から一筋の涙が伝い、アーロンは不意に目を開き大きな声を上げた。


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