ルカの赤い箱…お礼企画 | ナノ







「……おいしい。」

老人の煎れた茶をすすったアーロンは、思わず感嘆の声を漏らした。



「こういう時は冷たい物の方がうまいと感じるかもしれんが、あんたはこれから冷たい所へ行くんじゃから温かいものの方が良いかと思ってな…」

冗談とも本気ともわからない老人の言葉に、アーロンは思わず茶を噴き出しそうになる。



「……それで、あんたが言い遺したいことはどんなことじゃな?」

「では……ここが天国の灯台などではないということ、そして、この世にそんな場所はないことを皆に伝えて下さい。
私のように無駄な事をする者がいては気の毒ですから。」

老人はアーロンを見てくすくすと笑う。



「なにがおかしいのです?」

アーロンは、眉をひそめ、不快感を顕わにした。



「いや…最期に言い遺すことがそんなことかと考えると、どうにもおかしくてな。
それに、残念じゃが、わしはこの灯台を出ることはないから、それを伝えるのは無理じゃな。」

「ここから出ない?
では、あなたはずっとここにいらっしゃると…?
食べるものはどうされているのです?
風呂にも入られないのですか?」

「わしにはそんなもの必要ない……」

「馬鹿な!
あなたは僕をおちょくっておられるのですか!
どこに食事もせず、風呂にも入らない人間がいるんですか!
……あぁぁ、もうけっこうです!
どうせ、僕はあなたに馬鹿にされるような、価値のない人間ですよ。」

「……そうじゃな…
愛する相手のことを信じられないような者は…価値のない人間かもしれん……」

「え…?」

ぽつりと独り言のように呟いた老人を、アーロンは訝しげにみつめた。



「ご老人、今のはどういう意味ですか?」

「どういうも何も…今、言った通りじゃ。」

「愛する相手とは、誰のことを言ってるんです?」

「誰って…そりゃあ、エレーナに決まっておろう。」

「な、な、なぜ、その名を!!」

顔色を失う程狼狽したアーロンが、老人ににじり寄る。



「こらこら、落ち着かんか…」

老人はアーロンを押し戻すと、ゆっくりとお茶をすすり、ぼんやりとした視線を泳がせた。



「おまえさんはエレーナの言葉が信じられんのか?
それとも、人間は死んだらそれですべてが終わるのか?」

「あなたは、一体何を……」

「私はこれからもずっとあなたのことを見守ってる……その言葉を、おまえさんはなぜ信じてやらんのじゃ?」

アーロンは、驚きのあまり何も言えず、ただ大きく目を見開くだけだった。


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