「じゃあ、別に体調はなんともないのね?」

「うん、なんともないよ。
実は、さ……」

僕はついうかつにカリスタリュギュウス流星群のことを話しそうになり、あわてて口をつぐんだ。



「実は?」

「じ、じ、実はすごくお腹が減ってるんだ。
エリカ、家にいるんだったら何か作りに来てくれよ。」

エリカは、顔に似合わず料理は美味い。
ただ、こいつにそれを頼むと…



「良いわよ!
じゃあ、掃除込みで3000円!」

「高い!
そんなんだったら、コンビニで弁当でも買った方がずっと安くつく!
それに、今はそんなに散らかって…」

その時、僕の耳に聞こえたのはツーツーという電話の切れた音だった。



(……エリカの奴…)



なにかっていうと、エリカはこんな風にして僕に小遣いをねだる。
そしていつも僕はそれにうまく乗せられてしまう…

ごろんとベッドに寝転び、僕は小さな溜め息を吐いた。



それから程なくして玄関先で自転車の停まる音がして、次にがちゃがちゃと鍵を開ける音がした。
僕の部屋の鍵は、エリカも持っている。
元はといえば、掃除のために母さんに預けたんだけど、母さんがそれから合い鍵を作って父さんやエリカにも渡したから、皆がいつでもここに入れるようになっている。
プライバシーも何もない状態だけど、僕も特にそれに嫌悪感を感じない。



(……やっぱり、実家に帰ろうかなぁ…
本当に僕、無駄なことしてるよなぁ…)



「テル、オムライスとピラフ、どっちが良い?」

挨拶もなくどかどかと入って来たエリカが僕に質問した。



「う〜ん、そうだなぁ…」

起きあがり、ふとエリカの方を見た僕は、全身の血が凍りつくような感覚を味わった。



「エ…エ…エリカ!
そ、そ、それっ!!」

僕は、心臓が口から飛び出してしまいそうになりながら、必死に声を出した。



「それ……って、どれ?」

「だ、だ、だからっっ!」



何なんだよ!
おかしな冗談はやめてくれよ!

エリカの後ろに立つ男から、僕は視線がはずせなかった。

一瞬、エリカが友達か誰かを連れて来たのかと思ったけれど、よく見ればそいつの全身はうっすらと透き通っていて……



(う、嘘だ…
僕は、霊感なんて全くないんだ。
こ、これは幻覚だ。
そうだ、僕は最近疲れていたから幻覚を見てるんだ!)



僕は、少し温くなったお茶をぐいと飲み干した。
そして静かに目を閉じる。



「テル…あんた、何してんの?
ねぇ、どっちが良いのか早く決めてよ。」



(あれは幻覚だから、今度目を開いた時にはいなくなってる。
大丈夫。
大丈夫だ…)



僕は深く息を吸いこむと、ゆっくりと目を開いた。



「なんでいるんだよーーー!」



僕の絶叫にエリカは目を丸くして驚いた。

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