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私は火を止めて、シュウの元へ向かった。

「美幸、どこ行くの!」

母さんのヒステリックな声にも私は振り向かなかった。



「シュウ……」

「和彦さんだった。
おまえが電話に出ないから、俺にかけたみたいだ。
なんとかして、今夜中に戻るって。」

「そう…それでこっちの事情は……」



「美幸!なに、こそこそ話してるの!」

シュウと話す前に母さんが現れ、私は話すのを諦めて、また台所へ戻った。

思った通り、電話の主は兄さんだった。
もうそろそろ電車もなくなるはずだけど、本当に帰って来れるんだろうか?
でも、あの兄さんならきっとなんとかしてくれる。
そう信じて、私は兄さんが戻るまで何とかこの場を取り繕うことを決意した。







「本当にいらないんですか?」

「ええ。
あなたの作ったものなんて、信用出来ません。
私のことは構わないで下さい。」



母さんは頑なに食事を拒否した。
でも、台所からも出て行かない。
こういうのを針のむしろって言うんだろうな。
母さんの冷たい視線にさらされながら、私達は食事に手を着けた。
気分的には食べたくはなかったのだけど、腹が減っては戦は出来ぬ!
それに、兄さんが帰って来るまでなんとか間を持たさないといけないから。
私とシュウは押し黙ったまま、黙々と箸を動かした。
だけど、時間稼ぎのために、わざとゆっくりと。



食事が済んだらお風呂。
母さんはお風呂も入らないと言い張り、私が入る間もお風呂場の傍で立っていた。
まさに監視状態。
母さんがこんなに性格悪いというのか、執念深いとは思ってもみなかった。
シュウが入ってる間は、ずっと私のそばにいて、だからと言ってなにも話さない。



「母さん、お風呂くらい入ったら?」

「いやよ。
あんな得体の知れない男の入った後なんて、気持ち悪くて入れないわ!」

「そう…じゃあ、好きなようにすれば良い!」

本当は部屋に戻りたかったけど、そうすると母さんも着いて来るだろうと思い、私は見るとはなしにテレビを見ていた。
それにしても、夜も更けてきたというのに、兄さんは戻って来ない。
やっぱり無理だったのかもしれない。
この時間じゃもう電車はない筈だもの。
だったら、疲れたふりをして、早く寝てしまった方が良いのかも知れない。

そう考え始めた頃、家の前に車の停まる音がした。




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