「行くぞ!」

エリオットから顔を背けたフレイザーは二人の手をひっぱりながら、茂みの中を一目散に駆け出した。
もしかしたら三人の行く手にも魔物が潜んでいるかもしれないが、今はそんなことを心配していられない。
いたとしてもガミューより危険な奴ではない筈だ。
それだけを心の拠り所に、三人はひた走った。



「ま、待って…
私、そんなに走れ…」

「良いから黙って走るんだ!」

いつもとは別人のようなフレイザーに強引にひっぱられ、二人は倒れそうになりながら懸命に着いて行く…

その時、低くくぐもった咆哮があたりに響き渡った。
その恐ろしい声に三人も足を止め、一斉に後ろを振り返る。



「あ…あれは…」

「フレイザー!セリナー!
戻って来い〜!もう大丈夫だ!」

三人の瞳に、飛び跳ねながら手を振るラスターの姿が映った。




「……もう大丈夫って…」

「一体、どういうことなんだ?!」

狐につままれたような気持ちで、三人は今来た道をまた走り出した。




「わぁ…!」



息を切らした三人がそこで見たものは、おびただしい血を流しその場に倒れたガミューとその傍らに立ち尽くすダルシャの姿だった。



「そうか、ダルシャがやっつけてくれたのか…ん…?」

三人に背を向けるダルシャの様子が何かおかしい。



「耳…」

その時、エリオットが小さな声で呟いた…




「耳?」

フレイザーは鸚鵡返しにそう呟くと、それと同時に言葉の意味に気が付いた。




「耳!!」

フレイザーは、ダルシャの前に回りこみ、大きく目を見開き呆然とその顔を見つめる…



「……どうした?
笑いたければ、笑えば良い。」

「わ、笑うなんて…」

口ではそう言ったフレイザーだったが、一瞬の間を置いて、腹を抱えて笑い出す。
頭の上に大きく張り出した耳…そしてダルシャの端正な顔には長い数本のひげが生え、それらは猫を想わせた。、




「どうしたの、フレイザー。
あ……」

同様に、ダルシャの前に回り込んだエリオットが、ダルシャの顔を見て動きを止めた。

やがて、小さな声でフレイザーの耳元に囁く。

「フレイザー、ダメだよ、そんなに笑っちゃ…」

「だ、だって…
あのダルシャが…」

未だ笑いの発作がおさまらないフレイザーに気を遣い、エリオットはダルシャに向かって健気な作り笑いを浮かべる。



「まぁ、ダルシャさん。
どうして、そんなお顔に…!?」

そんな中、エリオットの気遣いをぶち壊すかのように、セリナの冷静な質問が飛んだ。


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