4
「行くぞ!」
エリオットから顔を背けたフレイザーは二人の手をひっぱりながら、茂みの中を一目散に駆け出した。
もしかしたら三人の行く手にも魔物が潜んでいるかもしれないが、今はそんなことを心配していられない。
いたとしてもガミューより危険な奴ではない筈だ。
それだけを心の拠り所に、三人はひた走った。
「ま、待って…
私、そんなに走れ…」
「良いから黙って走るんだ!」
いつもとは別人のようなフレイザーに強引にひっぱられ、二人は倒れそうになりながら懸命に着いて行く…
その時、低くくぐもった咆哮があたりに響き渡った。
その恐ろしい声に三人も足を止め、一斉に後ろを振り返る。
「あ…あれは…」
「フレイザー!セリナー!
戻って来い〜!もう大丈夫だ!」
三人の瞳に、飛び跳ねながら手を振るラスターの姿が映った。
「……もう大丈夫って…」
「一体、どういうことなんだ?!」
狐につままれたような気持ちで、三人は今来た道をまた走り出した。
「わぁ…!」
息を切らした三人がそこで見たものは、おびただしい血を流しその場に倒れたガミューとその傍らに立ち尽くすダルシャの姿だった。
「そうか、ダルシャがやっつけてくれたのか…ん…?」
三人に背を向けるダルシャの様子が何かおかしい。
「耳…」
その時、エリオットが小さな声で呟いた…
「耳?」
フレイザーは鸚鵡返しにそう呟くと、それと同時に言葉の意味に気が付いた。
「耳!!」
フレイザーは、ダルシャの前に回りこみ、大きく目を見開き呆然とその顔を見つめる…
「……どうした?
笑いたければ、笑えば良い。」
「わ、笑うなんて…」
口ではそう言ったフレイザーだったが、一瞬の間を置いて、腹を抱えて笑い出す。
頭の上に大きく張り出した耳…そしてダルシャの端正な顔には長い数本のひげが生え、それらは猫を想わせた。、
「どうしたの、フレイザー。
あ……」
同様に、ダルシャの前に回り込んだエリオットが、ダルシャの顔を見て動きを止めた。
やがて、小さな声でフレイザーの耳元に囁く。
「フレイザー、ダメだよ、そんなに笑っちゃ…」
「だ、だって…
あのダルシャが…」
未だ笑いの発作がおさまらないフレイザーに気を遣い、エリオットはダルシャに向かって健気な作り笑いを浮かべる。
「まぁ、ダルシャさん。
どうして、そんなお顔に…!?」
そんな中、エリオットの気遣いをぶち壊すかのように、セリナの冷静な質問が飛んだ。
- 41 -
しおりを挟む
コメントする(0)
[*前] | [次#]
トップ 章トップ