「じゃ、俺、もう一軒の宿屋に行って来るからな。」

ラスターは、そう言って機嫌の良い顔で微笑む。



「待って、僕も行く!」

エリオットが慌てて立ち上がった。



「……俺のこと信用してないんだな。
ま、いいや。
行ったらすぐにわかるんだから…
さぁ、行こうぜ。」

ラスターは、エリオットを伴なってもう一軒の宿屋へ出掛けた。
二人の帰りを待つ間も、セリナとダルシャの会話はまるで弾まず、ダルシャは暗い表情でワインを飲み続け、セリナはお茶をすすりながら、手持ち無沙汰に長い髪の毛を編んでいた。



「あ……」

程なくして戻って来た二人の顔を見て、セリナとダルシャはその結果を悟った。



「……あのね……」

口を開いたものの、エリオットの小さな声はそこで不意に途切れた。



「やっぱり、そんな奴泊まってないってさ!」

エリオットとは裏腹に、ラスターは威勢の良い声でそう言うと、めったに見せたことのないような笑顔を見せた。



「で…でも、僕達の方が先に着いたってこともあるかもしれないし、ヘイレンまでは行くんだからね!」

「そうよ、この町じゃなく隣町に泊まったってことだって考えられるんだもの!」

セリナとエリオットは、顔を見合せて頷きあう。




「俺は別にヘイレンに行くのがいやなわけじゃないぜ。
いつもは嘘みたいにうまくいってたけど、たまには見当違いの所に旅するのも面白いもんな!」

皮肉めいたラスターの物言いに苛立ったのか、ダルシャは不意に立ち上がる。



「な、なんだよ!」

「……ちょっと、よそで飲んでくる。
明日の朝にはちゃんと戻るから心配しないでくれ。」

そう言残して出て行くダルシャの後姿をみつめながら、ラスターは肩を震わせた。



「……ラスター、なんだか楽しそうね。」

「別に…
さてと…俺も部屋で飲むとするか。」

ラスターは酒を一本注文すると、酒瓶を小脇に抱え、鼻歌を歌いながら部屋に戻って行った。


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