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(……俺、どうすりゃ良いんだよ……)



ベッドに寝転がって、ぼんやりと天井を見上げるフレイザーの頭の中を何度も同じ想いがめぐりめぐっていた。



(俺が、この世界から突然いなくなったら、ジャックは…)



フレイザーは、元の世界のことを忘れたわけではなかったが、それでも、常にそのことばかりを考えているというわけでもなかった。
エリオットの一言によって、再認識された現実にフレイザーは戸惑う。



(……そうだよな。
俺達はいずれ元の世界に戻る…
いずれっていうか、赤い硝子玉さえみつかれば戻ろうと思えばすぐにでも戻れるはずだ。
……ジャックは、俺のことを信頼してるって言ってくれた。
その上、好きだとも…
でも、俺はどの道その信頼を裏切ることになるんだな…
だとしたら…やっぱり、俺はジャックのことは好きだなんて言わない方が良いんだろうか?
そして、いっそ男になった方が……
……いや、そんなことして、何になる?
たとえ、願い石の力で男になれたとしても、ジャックの心は女なんだ。
身体が男になったからってきっと女を好きになんてなれない…
だったら、ジャックは一生誰のことも愛さずにずっと一人で生きていくってことになるのか…?)




「そんなの酷過ぎる!」



「フレイザー…どうかしたのか?」

思わず口から飛び出た大きな声に、隣のベッドで寝ていたジャックだけじゃなく、当の本人もが驚きの表情を浮かべた。



「あ…あ、ごめん。
何か、俺、夢見てたみたいだ。」

「夢…?」

ジャックはフレイザーの咄嗟の嘘にくすりと笑う。



「……どんな夢みてたんだ?」

「そ…それが、目が覚めた瞬間に忘れてしまって……」

「なんだ、それ……
でも、珍しいな。
フレイザーが夢にうなされて起きるなんて…」

「そうだな…
俺、けっこう熟睡タイプだもんな。」

「フレイザー……」

「なんだ?」

「……俺のことは気にしないでくれよ。
俺の言ったことや、男になるって話は……もう忘れてくれ。」

ジャックのその言葉に、フレイザーはすぐには返事をしなかった。



「……いや、絶対に忘れない。
言っただろ?俺……好きだなんて言われたの初めてだし…
そんな大切なこと……一生、忘れないさ。」

「それはあんたが昔のことを忘れてるから、そんな風に思うだけだ。
もしかしたら、誰かと結婚していて子供だっているかもしれないぞ。」

「ないよ、そんなこと。
だ、だって、そんな大切なことは、いくら記憶をなくしたって忘れるはずない。」

ジャックはフレイザーの言葉に何も言わずに微笑んだ。


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