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「……ねぇ、フレイザー…
あと一日…あと一日で良いから、この町に泊まらないか?」

「またその話か…
それなら昨日コインで公正に決めたはずだぞ。
温泉には三日浸かったし、明日の朝も入って行くからそれで良いじゃないか。」

「ちぇっ……」



てっきり一度温泉に浸かったらすぐに出発するものだと考えていたフレイザーに反し、ジャックは一週間程その町に滞在することを提案した。
早くセリナ達の後を追いたいフレイザーと、フレイザーの傷を治すため一日でも長くその町に滞在したいと考えるジャックの話し合いはなかなかまとまらず、結局、その判断はコインに委ねることになった。
ジャックの指で弾かれ、軽く宙を舞ったコインは表を向いてテーブルの上に着地した。
表に賭けたフレイザーは、本心ではすぐさま発ちたい気持ちだったが、ジャックの想いを汲みとって三日滞在することで決着は着いた。



「温泉のおかげかどうかわからないけど、ここに来てからいつもより食欲もあるんだ。
俺、このごろよく食べてるだろう?
この分だとこれからの旅も元気で行けそうだ。
……ジャック、ありがとうな。」

「えっ!?」

ジャックは思いがけないフレイザーの言葉に、うっすらと頬を染めて俯いた。
その様子に、フレイザーは嬉しそうに目を細める。



「こんな良い温泉があるのに、意外と入りに来る奴は少ないんだな。」

「やっぱり街道からはずれてるからじゃないのかな。
きっと、皆、知らないんだよ。
俺も、町でたまたまここのことを聞かなかったら、こんな所に温泉があるなんて気付く筈もないよな。」

「そうだな。
このあたりの者達だけの憩いの場所って感じなんだろうな。
……そういえば、昨日一緒になった老人が言ってたけど、あの温泉は、大昔、宝探しに来た誰かがたまたま掘り当てたって話だぜ。」

「本当かい?
……期待してたものとは違ったかもしれないけど、ある意味、お宝を掘り当てたようなもんだね。」

二人は他愛ないそんな話に顔を見合せて微笑んだ。



ジャックも一度くらい入れば良かったのに…
その想いを、フレイザーが口にすることはなかった。


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