「……ジャック、本当に寄り道して行くつもりなのか?」

ベッドに横になったフレイザーが唐突に話しかけた。



「フレイザー、早く寝なきゃだめじゃないか。
君はまだ完全に体調が良くなったわけじゃないんだから。」

ジャックは荷物を整理をする手を停め、フレイザーの方に向き直った。



「俺ならもう…」

「行くよ。
傷に良く効くって話だからね。」

「……そっか、わかった。」

ジャックの顔を見れば、自分が何を言おうともその計画を変えるつもりがないことをフレイザーは悟り、もうそれ以上話すのはやめた。



(あ〜あ…こんなことじゃ、いつ、セリナ達に追い付けるかわからないな…)



宿の食堂で、この近くに温泉があることを知ったジャックは、そこに立ち寄る事を即決した。
しかし、そこはフレイザー達が進もうとしていた道とは少しばかり方向が違う。
そんな寄り道をすれば皆と合流するのが遅れることは間違いのないこと。
そう考えるとフレイザーはあまり乗り気ではなかったが、ジャックが自分のためを想ってしてくれてることもわかるだけに、そう無下にも断れず、フレイザーは横を向いて小さな溜め息を漏らした。



「……ジャック…
前にも言ったけど、俺の傷のことは気にすんなよ。
おまえのせいなんかじゃないんだからな。
それと、俺は本当にもう大丈夫だから、心配しなくて良いからな。」

「でも……
……フレイザー…俺のこと…迷惑に想ってるのか?」

小さな声でそう言ったジャックの瞳が、とても不安げなことにフレイザーは気が付いた。



「……馬鹿だな。
こんなに尽くしてもらってて迷惑だなんて想う筈ないだろ。
おまえ、このごろ張りきり過ぎてるからちょっと心配になっただけだ。
おまえは元々身体が…」

「俺は、そんなに頼りないのかよ!」

突然大きな声を上げ、苛立ちをぶつけるジャックに、フレイザーは目を大きく見開いた。



「そうじゃないんだ、ジャック。
おまえがいてくれて俺は本当に助かってるし、頼りにだってしてるよ。
ただ……」

「もう良いよ!
……フレイザー、俺に気を遣うのはもうやめてくれ。
迷惑なら迷惑だってはっきり言ってくれよ!
……俺が役立たずなのは自分でもよくわかってる…
だから、そんな風に……同情で優しくされるのはいやなんだ。
余計に自分が惨めになる…!」

「ジャック……
おまえ、まだそんなことを…」

フレイザーはゆっくりと身体を起こし、ベッドの縁に腰掛けた。


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