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「……フレイザー……」

「ジャック、フレイザーなら心配ない。
ここには私がいるから、君は宿に戻って休みなさい。」

ダルシャの言葉にジャックは黙ったままで首を振り、フレイザーのベッドの傍を離れようとはしなかった。



「ダルシャ、ジャックはここにいたいみたいだからいさせてあげて。
私も一緒にいるからあなたこそ宿に行って。」

セリナに向かって、ダルシャは困ったような顔で首をすくめる。



「……そういうわけにもいかんだろう。
では、エリオット、ラスターと一緒に宿にいてくれ。
フレイザーのことなら心配ない。
それよりも……」

そう言うと、ダルシャは声をひそめ、エリオットの耳元に口を寄せた。



「ラスターのことを頼む。
酒でも飲ませて今夜は早めに休ませてやってくれ。」

「わかったよ、ダルシャ。」



ラスターに切り付けられたフレイザーは、かけつけたダルシャに背負われ町の診療所へ運び込まれた。
思ったよりも出血が多かったため、ダルシャの血を輸血したが、命に関わるような容態ではない。
傷を縫い合わせた後、フレイザーは痛みがあるために薬で眠らせられた。

町へ運ばれる間も、そして、傷の処置を受ける間も、ジャックは狂ったようにフレイザーの傍で泣き続けていた。
セリナ達がどれほどなだめてもジャックの興奮はおさまらず、すべてが済んでフレイザーが眠った頃になってようやくジャックも落ちつきを取り戻した。



「ジャック、フレイザーはもう大丈夫だから心配いらないわ。
そうだ、今のうちに何か食べに行かない?
おなか減ったでしょう?」

ジャックはフレイザーをみつめたまま、黙って首を振った。



「…そう。
じゃあ、ダルシャ…」

「私は君達を残してここを離れるわけには行かない。」

「私達なら大丈夫よ。
あなたは血も採ったんだから、何か食べとかないと…」

「あのくらいなんともない。」

「だめよ!無理しちゃ。」

「……では、手持ちのものでも何か食べておこうか。」

セリナの厳しい口調に、ダルシャは荷物の中を探り、林檎に似た赤い果物とパンを取り出した。
ダルシャは、それらをセリナやジャックにも手渡し、そして、ゆっくりと話し始めた。


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