006 : 雑貨屋1


「リュック、見て!
あっちにはお店があるみたいよ。
行ってみましょうよ!」

クロワも私と同じことを考えたのかどうかはわからないが、そのおかげでリュックとクロードの会話はうやむやにされた。



「まぁ、可愛らしいお店!
入ってみましょうよ!」

クロワは、普通の女性とは違い、普段は買い物にはほとんど興味を示さない。
必要な物しか見る事はない。
そんな彼女が、一軒の店の前で足を停めた。
いかにも女性の好みそうなカントリー調の外観をした店だった。
外から店内を覗き見た所、どうやら小物を扱う雑貨屋のようだ。



「珍しいな、クロワさんがこういう店に入りたがるなんて…」

「失礼ね。
私だって、たまにはこういうものも見たくなるわよ。
今までは忙しくてその暇がなかっただけよ。」



その言葉が本当かどうかはわからないが、先日のリカールの結婚式でいつもとは違う服装をした時のクロワはとても嬉しそうだった。
あれがきっかけでこういう店にひかれるようになったとしても不思議ではない。

店内には、至る所に女性好みの可愛らしい雑貨が並んでいた。
私のような男性には、少し居心地の悪い場所だ。
しかし、リュックやクロードは意外なことに店内の小物を手に取って見ては楽しんでいる。



「マルタン、これ見てみなよ!
可愛いなぁ…」

リュックが愛しそうに手にしていたのは、小さな子供が抱くのにちょうど良いような小型のくまのぬいぐるみだった。
私はリュックの言葉に思わず噴き出した。



「君にそういう趣味があったとは知らなかったよ。」

「何、笑ってんだよ!
俺がぬいぐるみを持ってたらそんないおかしいか?」

「いや…すまない。私の偏見だな。
確かに可愛いよ…」

それは嘘ではなかった。
あどけない丸い目をした茶色のくまは、見ているだけで穏やかな気持ちになれる。
可愛いものを率直に可愛いと言えるリュックは、やはり純粋な心の持ち主なのだ。



「可愛いでしょう?
そのぬいぐるみは、店に出すとすぐに売れるんですよ。
それを作ってる人はずいぶんとお年の方なんですが、時間をかけてそりゃあ丁寧に作られてます。
真心がこもってるっていうんでしょうか…」

「あぁ、よくわかるよ!こいつの顔に優しさが現れてるよな。
よし!決めた!俺、こいつを買うぞ!」


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