※女体化
男にフラれた。それも、結構本気だった奴に。歪んだ顔で好みじゃないと告げられた瞬間、きっと大丈夫だからとあたしの背中を押した友人が憎くて堪らなくなった。そんなあたしは友達に苛立ちをぶつけたくはなかったから、しょっちゅうつきまとってくる眼鏡にそれを押し付ける事にした。ようするに八つ当たりだ。それでも黙って話を聞いてくれる忍足侑士はいいやつだ。全然あたしの好みじゃあないけど、それはよくわかる。
「でさあ!あの野郎ごめんの一言もなしにあたしをほって帰ったんだぜ!?」
「ああ、それは腹立つなあ」
「だろ!だから靴脱いでぶつけてやったんだ。振り返りもしなかったけどな」
思い出すと泣けてきた。なんてしおらしいいじらしい部分が出る筈もなく、あたしはただただ忍足に愚痴をぶつけ続けた。薄い笑いを口元に浮かべて忍足はあたしの話を聞いてくれた。それはすごく心地良いものだった。
放課後の教室はやたら暗くて、でも電気をつけに立つ気も起きなくて、ただひたすらあたしは話し続けた。
「向日さんはこんなにかえらしのになあ…なんでフラれてもたんやろ」
「だから、好みじゃなかったって言われたんだって。話聞いてなかったのかよ」
「いや、しっかり聞いとったで。せやけどどうしても納得出来んくてなあ…」
侑士はずれた眼鏡を直しながらあたしを見た。同情とかは一切ないきれいな目。色っぽいだの年齢詐欺だのさんざん言われてるけど、その目を見ると忍足だってあたしらと同じなんだとなんとなく思う。
会話が止まると大きな手でやさしくやさしく髪を撫でられて、じんわり嬉しさが心を満たした。
「なあ、向日さん、これからも俺でよかったら愚痴は聞くから」
「ん、サンキュ」
「せやから、こんな時間に他の男呼び出したりせんでな」
こっそり閉じていた目を開ける。暗くて表情まではわからないけど、そこに忍足がいると思うとすごく安心した。忍足はどうなんだろう。突然の呼び出しに文句も言わず、あたしの愚痴を聞いて、なんとも思わないのだろうか。
忍足侑士はあたしを好いているらしいと噂話で聞いていた。けれどあたしと忍足にはとりたてて接点もないし、その噂は自然のうちに消えてしまった。それでもあたしは確信している。こいつはあたしを、女として見ている。テニスボールを追ってばかりの目が、あたしを見る時は明らかに色が変わっているのだ。それをまわりには気付かれていないと忍足はわかっている。そしてそれは正しかった。たぶん忍足は、あたしにも気づかれていないと思っている。
「なあ、もう遅いし帰らん?送って行くさかい」
「マジで?助かるよ」
お安いご用や、と言って笑う忍足は何を考えているんだろう。あたしを酷い女と思ってるんだろうか。あたしはそれが知りたかった。好きとかの気持ちは一切無い、けど、自分を好きな男が好きな相手から恋愛話を聞かされるのはどんな気持ちなのか、それを知りたかったのに忍足は表情を変えなかった。つまらない。本音は隠して忍足の背中を押す。心臓の動きはわからなかった。
駆け引きに気付かない
リベンジを宣言する
2011/8/1